「+DESIGNING×リカレント」のコラボ企画として、講師にアートディレクターの野尻大作氏、ゲストにフォトグラファーのTAKAKI_KUMADA氏をお迎えし、特別セミナーを開催しました。野尻氏はこれまでに「OLYMPUS PEN」「日清カップヌードルFREEDOM」「UNIQLO HEAT-TECH」など誰もが知る話題のキャンペーンを数多く手がけるアートディレクター。野尻氏の話が直接聴ける貴重なセミナーとあって、平日の夜にも関わらず沢山の方にリカレントにお集まりいただきました。

クリエイティブディレクター/アートディレクター野尻 大作氏
講師
クリエイティブディレクター/
アートディレクター
野尻 大作

プロフィール クリエイティブエージェンシーGROUNDのクリエイティブディレクター/アートディレクター。[OLYMPUS PEN]、[iida]、[Adidas×GIANTS]、[日清カップヌードルFREEDOM]、[UNIQLO HEAT-TECH]など、話題のキャンペーンを数多く手掛ける。

受賞歴 東京ADC賞/JAGDA新人賞/N.Y.ADC:銀賞/CLIO AWRD:銀賞/ASIA PACIFIC ADVERTISING FESTVAL:グランプリ、金賞/New York festivals International Advertising Awards:銀賞、銅賞/ONE SHOW DESIGN/D&AD GLOBAL AWRDRS、他受賞多数。ドイツの出版社、hesignから発行された[ALL MEN BROTHERS](2006)で、世界の精鋭デザイナー108人に選出

フォトグラファーTAKAKI_KUMADA氏
ゲスト
フォトグラファー
TAKAKI_KUMADA

プロフィール 2004年独立。
モード誌のファッション・フォトグラフィを中心に活動。
グラフィック広告のほか、ファッション・ムービーやCFの撮影も手がける。

野尻大作氏の代表作品

野尻大作氏の代表作品

第1部 今求められる「ブランド×デザイン×コミュニケーション」のかたち

+DESIGNING編集長の小林氏が聞き手となり始まった「第1部」は、「広告に企画やアイデアはいらない。」という野尻氏の衝撃的な一言から始まりました。参加者の顔には「アイデアや企画こそが大事なのでは?」と驚きの表情が浮かぶ中、「今は誰もがスマホを持ち歩き、ネットやSNSで情報を探し、得たい情報がカスタムできる時代。広告は、溢れる情報の中で目立つのではなく、常に良質であることが重要」と野尻氏。広告といえばCMが中心で、商品の認知に重きを置いていた時代に求められたのはインパクトがあり目立つ広告でした。しかし、大きな時代の変わり目にある今。企業もアイデアやインパクト勝負ではなく、ブランドを創ることの重要性に気付いたと言います。そして意外にも「アイデアを出す企画会議とかやったことないです」と野尻氏。発言の一つひとつに参加者の注目が集まります。
それでは、野尻氏が考えるブランドを創るとは何か?
スライドに映し出された「企業や商品の特徴にふさわしい表現を見つけて、徹底して継続して描き続けることで独自の世界観をつくりあげていくこと」という答え。この答えの意味が、これまでに野尻氏が手掛けた企業や商品を例に徐々に紐解かれていきます。

まず取り挙げられたのは、女性を中心に大ヒットしたデジタル一眼レフ「OLYMPUS PEN」。男性がターゲットだった業界の常識を覆し、女優の宮崎あおいさんを起用してファッションフォトのようなビジュアルを創りあげました。そのクールで上質な表現は、女性とのコミュニケーションに軸足を置きながらも、真のカメラファンである男性にも支持されるイメージに。また、等身大ではなく、メインターゲットより少し上を表現することで女性に憧れを抱かせる商品へと押し上げました。
続いて、本格派のカメラファンに向けた「OLYMPUS OM-D」。ここでは製品の特徴をいかに表現するかが語られました。野尻氏が行ったのは「先進性」「高機能」といった製品の特徴と世界観を3DCGを使い徹底して描き出すこと。企業が伝えたい製品の特長をターゲットに感じてもらえれば良い、と話す野尻氏。3DCGを使った表現でそれを成し遂げました。
また、高級住宅メーカー「創建ホームズ」の例では、企業の独自性や世界観を創りあげたCGムービーを上映。ユニークなファッションを展開するゴスロリ・ブランド「Putumayo」では、iPadアプリによるユニークな表現が紹介されました。
印象的だったのは、企業や商品の個性を表現する上で「他のクリエイターと同じ表現では勝てない」という野尻氏の言葉。だからこそ、クリエイターの表現が独創的であること、そのためにCGやムービー、アプリなど常に新しい表現手法に貪欲であり、高いレベルの表現を目指すことが必要だと参加者へ向けて語りかけてくださいました。

第2部 プロフェッショナルたちのチームワークが生む、クリエイティブの裏側

続く「第2部」では、会場のスクリーンにTAKAKI_KUMADA氏の写真(作品)や実際の撮影風景の様子などが映し出されました。KUMADA氏の作品も誰もがよく目にするものばかり。これまで野尻氏と共に多くのプロジェクトを手掛けてきたKUMADA氏ですが、独立直後は自らの独自性について試行錯誤したと言います。「競合他者とは違う、自分だけの表現を心がけて誰もやらないようなレタッチにも挑戦していました」。ある意味ブランディングのようなことをやっていたかもしれないというKUMADA氏の言葉には、野尻氏の考えと共通する部分が見えました。また、野尻氏がKUMADA氏に広告の仕事を依頼するきっかけとなった作品の話や現場の裏話など興味深い話が次々に飛び出す展開となり、参加者は身を乗り出すようにして熱心に聞き入っていました。
実に280枚にも及ぶスライド資料を提供していただいた今回のセミナー。その膨大な資料は、様々なスタッフが関わる撮影現場や一つの製品に対する多彩なコミュニケーション展開などがまとめられ、現場感を共有できる貴重な資料でした。
「デザイナーのデザインスキルが企業の商品のブランド価値に直結する。デザイン力・クリエイティブ力が高いのはこの仕事の基本。僕も常に勉強しています。皆さんも頑張ってください」野尻氏から参加者へ、最後に力強いエールをいただきました。