照明/商空間デザインスペシャリスト対談
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スペシャリスト対談
河原武儀 × 平川尚巳
個人に帰着する「住空間」と違い、「商空間」は合理性を要求される
河原:

最近では、商空間で流行った照明が住宅用にリファインされて照明器具として開発されたり、美術館やホテルで特注品として作られた照明が、住宅用に商品化されたりしていますね。基本的には商空間でも住空間でも、買い手は同じ『人』ですからね。

平川:

そうですね。商空間と住空間の違いを挙げるとすると、商空間は常に合理性が要求されるところ。「なぜこの色?」「なぜこの形?」「なぜこの照明?」という膨大な問いのすべてに、明確な理由があります。つまり「どうすればより売れるか」という根本に基づいてデザインがある。一方住空間では「なぜ?」という問いの答えはあくまで『個人』に帰着してきます。より少数特定の方を相手にするわけですね。その点が一番違うのではないでしょうか。ところで河原先生は、これまでどのようなお仕事をされてきましたか?

河原:

私は主に照明の基本設計でアイデアの提案、主要計画といった仕事をしてきました。ヤマギワで仕事をしていた時は、照明デザイナーというよりむしろ照明コンサルタントという方が近かったかな。いわゆる啓蒙の仕事ですね。例えば、靴屋のフィッティングルームで、「太陽光の下や、ナイトクラブの照明の下では、靴がこんな風に見える」と光源を仕込んだブースを作ったり・・・、京都のお寺でのカラーライティングのイベントや、美術館での照明計画をしたり・・・、お寺でカラーライティングとは何事だ!と住職さんには、かなりビックリされましたけどね(笑)。

平川:

面白いですね。私もジャンルや分野にはこだわらずに仕事をしています。例えば、ドン・キホーテさんでの仕事のように、いろんなテナントがコンバインした変わった店舗を作りたい、とにかくブッ飛んだ面白いモノをつくりたい、といった考え方ですね。業種も業態も何でもやっちゃうみたいな。そして、売上が上がって利益を出せて、展開性のある空間デザインということを常に心がけています。今回リカレント新宿の新校舎立ち上げもやらせていただきましたが、スクールというのは初めてでした。未開拓の分野でもまずは最初の一歩目を踏み出して、踏み出したからには走り続ける、という考え方で仕事をしています。

河原:

「売上」という言葉が出ましたが、我々の世界では売上や計算というのが重要なキーワードになってくるのではないでしょうか。

平川:

そうですね。商空間では結果が売上に関わってくる。極論では、見た目が悪くても、結果的に売上が伸び、お店が流行れば認められる。ですから、商空間デザイナーには経済観念が特に必要です。50億の仕事をしていくときでも、5円の差にこだわれない人はビジネスの世界では上手くいかない。

河原:

照明デザインにおいても同じですね。「照度計算」や「省エネ」という考え方は必ず出てきます。数学や物理の分野が嫌いと言ってるようでは仕事にならない。大事なのは「硬軟併せ持つ」ということですね。「計算ができる+デザインができる」、重要なのはその両方を持つよう努力すること。最初から右脳と左脳がバランスよく発達している人は少ないですからね。

3DCG技術は日本の商業デザインの可能性を飛躍的に高めた
平川:

商空間デザインでは照明を切り離しては成立しないですね。例えば壁の色ひとつとってみても、照明の色温度と、実際に塗る塗装の色との兼ね合いで初めて決まるわけです。蛍光灯の下で色を塗っていても出来上がった空間は全く違うものになってしまう。必ず相互的に必要なものですよね。

河原:

そうですね。以前は商業施設では、照明はあまり重要視されていなかった。メンテナンスが重要で見え方は二の次だったわけです。でも今は、「照明=設備」という考え方ではなく、目で見た居心地の良さ、というものが重要視されてきましたね。

平川:

ライティングの手法も変わってきましたよね。今は直下照度ではなく視覚照度、どう明るく見えるか、が勝負です。できるだけインダイレクトで明るくする。どこに照明があるのかわからないけど明るい、というインダイレクトライティングをするためには、結局インテリアがないとできない。照明でも何に当てたい、何色に見せたいということがないと駄目ですよね。

河原:

そうですね。CGで簡単にシミュレーションができるようになってライティングが良くなっているというのはありますね。ただ商空間はそうなってきているが住空間はまだ追いつけていない。これから住空間を勉強する方にはぜひ照明のことも学んでもらいたいですね。日本の場合、住空間の照明が、もっと商空間に触発されてレベルが上がっていくといいと個人的には思っています。逆に、商空間デザインはこの10年で、ニューヨークやパリ、ロンドンにひけをとらないレベルまで、日本は到達していますから。

平川:

ここ10年の進化はすごいですね。理由としては、やはりCG技術の導入が挙げられますよね。15年くらい前から商業デザインにおいて、VectorWorksとCGは必須になっています。その画期的な作業性のアップといったら昔では信じられないくらいです。

河原:

照明の場合、実寸模型のプレゼンテーションの際に何かひとつ変えるだけで模型でも配線工事をやらなきゃいけない。それをCGでもって簡単に表現できるようになってからは、CGは欠かせない技術となってきました。照明器具だけでなく壁の色を変えると光が変わって、明るさや空間全体の雰囲気が全然違ってくる。これは頭ではなかなか想像できない。CGはそれをリアルに、しかも自然に表現してくれます。

平川:

明かりのシミュレーションができれば、ガラスより壁のリフレクションが、とか口で説明するよりも、目で見て「こうなるんです!」ってプレゼンできるので、断然早いわけですよね。

河原:

はい。照明は変えないけど、内装を変えたらこんな風になった、というのは色々試してチェックしたいところですよね。CGはいろんなパターンの照明のシミュレーションがすぐにできる。たとえば照明工学では、1/2距離が近づくと明るさは2倍ではなく4倍明るくなるわけですね。つまり対象物と照明の距離を少し変えただけで明るさが激変する。これはCGではラジオシティ計算という機能でもって、正確に光の計算、空間のシミュレーションができるんです。CGとかコンピュータ化はこれから絶対に必要ですね。

平川:

おっしゃる通りです。プレゼンの際に欠かせない機能的な部分はもちろんですが、3DCGのよさというのはいろんなパターンを試せるところ。頭の中にあるデザインを表現する以上に、いろんなパターンを試してみることでデザインの新たなアイデアをそこから引き出すこともできる。もちろんクライアントに最終提示するために、本物とほぼ同じに表現した精度の高いCGを作る、という目的もありますが。自分の頭を柔軟にするためのツールとして、3Dの表現から新たなアウトプットを生むためのツールとして、使えるかどうかが重要ですね。

単純な仕掛けがデザインを一変させる 重要なのは、どうモノを見るか考えるか
平川:

河原先生はこれまで、照明デザインをする際に影響を受けてきたものはありますか。

河原:

私の場合「能」の影響が大きいですね。ある時、文献を読んでいて見つけたのですが、室町時代に世阿弥という人が「能」というものを編み出してそれを芸術に高めた。能では役者が被る能面自体は非常に無表情なんですよね。そこに能の舞台にはほのかに明るい光が全体にあるために、ちょっと上を向くと嬉しい、喜んでるような表情に、ちょっと下を向くことで悲しんでるような表情に見える。その人の喜怒哀楽を顔の角度と光によってできる微妙な影で表現したんです。それを読んだときに唖然としましたね。照明ってこれだ!と。光を動かすのではなくて、それを当てるものが動いたり、そのものが重要なんだと。光ってすごいなと思いましたね。これから一生かけてやってくのにいい仕事だなと。

平川:

河原先生のおっしゃるとおり、ライティングってそういうことですよね。昔の日本では行燈とか、焚き火とか、それこそ陰影礼賛の世界じゃないですが、非常に高度なライティングが日常使われていた。

河原:

そうですね。今も日本人のDNAの中にそういった日本古来の美の感覚は必ずある、と思っています。第二次世界大戦後の高度経済成長の中でそういった美の感覚というものが抹殺されてしまった。そういう感覚を、自分の場合は伝えて回ることで、少しでも気づいてもらえたり、引き出していくことができたら、というのがありますね。ところで平川さんは何か影響を受けてこられたものはありますか?

平川:

僕の場合はゴレンジャーですね(笑)。顔は能面と同じ無表情、でも色で瞬時にキャラクターがわかる。赤はリーダー、ちょっとマヌケは黄色、ニヒルでクールは青、マニアックなのは緑、女は桃色とか。五人揃ってゴレンジャー!みたいな。非常に単純明快で説得力がある。

河原:

私もゴレンジャーは大好きでしたよ(笑)。

平川:

河原先生の能の考え方と基本的には重なるんですが、例えば、ロボコンになると、ゴレンジャーの要素をさらに進化させて、目玉の白いところを貼りかえるだけで心情まで出せる(笑)。何が言いたいかというと、僕が目指すのはこれなんですね。ちょっとした仕掛けでおおっ!と思わせることができるかどうか。そういったデザインに辿り着くために、何日も徹夜することもあります。

河原:

そういう見方ができないと、商業デザインはできない。私はリカレントで教えていますが、いつも生徒にただものを見るなと言っています。生活や遊びの中で、どのようにものを見てくるか、そしてそれを経験として持ち帰ってくるか。例えばディズニーランドに遊びに行った時に、この空間いいな、と思ったらどうしてそう思ったのかを考えてみること。作曲家もいつもただピアノの前に座っているだけじゃ、いい音楽はつくれませんから。

平川:

その通りだと思います。なぜ?なに?という素朴な疑問を、子供のようにしつこくしつこく持ち続けること。それができる方は、現在、素人でも必ず将来は、プロになれると思いますよ。

平川 尚巳
平川 尚巳Naomi Hirakawa
商空間デザイナー/商空間コンサルタント
株式会社ナイツ・アンド・カンパニー 代表取締役

業種を問わず多彩な商空間をデザイン&コンサルティング。主な仕事では、最近話題のCold Stone Creameryをはじめ、TULLY'S COFFEE、Segafredo Zanetti、DELL Realsiteの店舗設計など。また、2005年度リニューアルした「リカレント新宿」の内装デザインも手がける。

河原 武儀
河原 武儀Takenori Kawahara
ライティング・コンサルタンツ/照明コンサルタント
リカレント照明/商空間デザイン講座 講師

パッケージデザイナー、大手照明メーカー・ヤマギワにおける照明コンサルタントを経て、現在は各地照明術セミナーの講師として活動。様々なメディアで照明の啓蒙活動を行う。日本国内における照明デザインの第一人者である。受講生に圧倒的な支持を受けている。

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