現在、インテリア業界の登竜門とされるインテリアコーディネーター資格。その資格認定を行う(公社)インテリア産業協会で事務局長を務める島村一志氏を講師にお招きし、特別セミナーを開催しました。
インテリアコーディネーター資格の第1期生であり、40年近いインテリア・住宅関連業界でのキャリアをもつ島村氏。業界で活躍するスキルや、センスを磨く方法など今からできるトレーニングを伝授していただきました。

島村 一志氏
講師
(公社)インテリア産業協会 事務局長
島村 一志

プロフィール京都工芸繊維大学卒。三井系インテリア企業にてインテリアビジネスの仕組み作り・ショールーム運営など各種プロジェクトに携わり、2012年(公社)インテリア産業協会事務局長に就任。インテリア普及や人材育成を目的とした事業推進に従事している。インテリアコーディネーター資格の第一期生(1984年)。

リカレントの河原武儀先生も特別出演。島村氏とはかつてからの友人で一緒に仕事をする機会も多々あるそう。

セミナーには、リカレントの河原武儀先生も特別出演。島村氏とはかつてからの友人で一緒に仕事をする機会も多々あるそう。

インテリア普及のための事業推進を行う、インテリア産業協会の取り組み

イベントでの展示企画・国内最大級のインテリア展示会「JAPAN TEX」

名作からみる“ビジネスとしてのインテリア”

2012年より公益社団法人インテリア産業協会事務局長を務め、インテリア普及や人材育成に従事している島村氏。
今回のセミナーでは、まずインテリア業界のプロローグとして、歴代の建築家・デザイナーたちによる名作と呼ばれる建物の紹介が行われました。
昔からある長屋を現代風にアレンジしたことで有名な安藤忠雄氏のデビュー作『住吉の長屋』(1976年)や、集合住宅でありながら“近隣への開放性”をコンセプトとし、オーナー住居とワンルーム住居を1つの敷地内に分散して建てた西沢立衛氏の代表作『森山邸』(2005年)など、様々な名建築物を写真と設計図を用いて分かりやすく解説。また2016年に「住まいの環境デザイン・アワード」でグランプリを受賞した谷尻誠氏・吉田愛氏による合作『安城の家』(2015年)が紹介され、型にはまらない自由なスタイリングを体現化した作品の数々に、参加者の関心も一気に集まります。

次に島村氏はデンマークのデザイナー/アルネ・ヤコブセンの代表作「ANT CHAIR」通称「アリンコ」の製作過程をモデルに、インテリア業界で“ビジネスとしてのインテリア”を成功させる秘訣を伝授。デザイナーは、ただアイディアを生み出すだけでなく、形や機能を作り手の誰にでも分かるように具体化・設計し「生産の前提を整える」ことが必要であると解説しました。
製品が商品として流通に乗り、購入者に届くまでには、機械メーカーや資材管理会社・広告代理店・販売スタッフなど大勢の人たちが関わってきます。また環境問題への配慮が重視される現在、3R(Reduce〈減量〉・Reuse〈再使用〉・Recycle〈再循環〉)への意識も欠かせません。それらを踏まえた上で「エンドユーザーに対して自分はどの位置にいるのか、常に全体を把握しながら仕事を進めることが大切」と説明しました。

続いて島村氏が紹介したのは、インテリア業界における今後の課題と需要について。
耐震・防災に対する取り組みや省エネ問題、若年層の「住」への価値観低下に伴う新築住宅の減少、住宅地の空洞化・スラム化をどう防ぐかなど、いくつかの課題が挙げられました。
特に、バブル期などに建てられた古い住宅が空き家になり、夜に明かりのつかない家が増えていくことは治安の悪化にも繋がるといいます。
これらの課題を解決する鍵は「従来型インテリアビジネス構造の転換」と島村氏。現在のインテリア業界では、リフォーム・リノベーションビジネスの事業強化や土地本位主義からの脱却、住宅の長寿命化を目指すなど時代に合わせた柔軟性が求められているようです。

資格取得は能力を生かすための“スタート”

セミナーの後半では、室内カーテンの選定を例に「クライアントの要望とデザイナー側の提案が異なった場合の対応方法」や「インテリアを知るツボ」など、インテリアビジネスに取り組むために必要なテクニックとセンスの磨き方を紹介していただきました。
インテリアビジネスにおいて最も重要となるスキルは「感性とコミュニケーション」。
自分の思いだけで突き進むのではなく、ビジネスの先には常にクライアントやエンドユーザーがいることを理解し、どれだけ相手とコミュニケーションを深めることができるかが鍵となります。
また、インテリアは最も日常生活と深く関わりのある分野であり、センスを磨くための教材は24時間身のまわりに転がっているという島村氏。色々なことに疑問を持ち観察することや自分の手で触れてみることが、インテリアをよりよく知る近道のようです。

最後に島村氏は、インテリアビジネスのエリアは住宅や家具のみにとどまらず、交通・劇場・舞台・映画・イベントなど自分たちの身のまわりにある全てのものに通じていると解説しました。
全くの未経験者である看護師や旅客機乗務員がインテリアデザイナー・コーディネーターへと転身した例も珍しくないそうで、資格を取得することはゴールではなく「能力を活かすためのスタート」であり、資格取得によって得た知識は様々な分野に応用させることができるとのこと。
「インテリアを学び資格を取得することは、みなさんの可能性を広げるチャンスです」という島村氏の力強いメッセージに、参加者からは「インテリアには無限の可能性と創造性、そして人生の楽しさがつまっていると感じました」「広い目でインテリアコーディネーターのことを考えることができた」「インテリアの面白さ、学び方などを知ることができ新鮮だった」など感動の声があがりました。