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キャリア - 2023.05.12公開

厚生労働省も掲げる「ディーセント・ワーク」、これはいったいどんなもの? その意味とは

ディーセント・ワークは、働き方の概念を説明するワードのうちのひとつです。
このページでは、ディーセント・ワークとはいったいどんなものか、企業の取り組みやメリットなどを解説していきます。

ディーセント・ワークとは

ディーセント・ワークとは、公平で、自由で、人間的な仕事を意味します。

ディーセント・ワークは、1999年に開催された第87回ILO総会において提唱された考え方で、「雇用の創出」「労働における基本権利の保障」「社会保護の拡充」「社会対話の推進と紛争解決」の4つ目標を掲げています。

厚生労働省ではディーセント・ワークを次のように定義しています。

(1)働く機会があり持続可能な生計に足る収入が得られること
(2)労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること
(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

引用:厚生労働省  |  ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告

日本では、職業選択の自由が認められています。またさまざまな意見はあるものの、著しく不平等な労働契約が結ばれることはそれほどなく、雇用される側も不当な契約を拒否できると考えられています。

そのため、日本の労働者には、この「ディーセント・ワーク」の考え方は理解しにくいものかもしれません。

しかし世界に目を向ければ、「公平で自由で人間的な仕事」が成立していない社会もあるため、問題解決に向けた世界的な取り組みが必要とされています。

「一般企業」が取り組めるディーセント・ワーク

日本規模では、企業が取り組むことができる以下のディーセント・ワークが挙げられます。
 

  1. 長時間労働の見直し
  2. ハラスメントの防
  3. 多様な働き方を受け入れる

 
それぞれみていきましょう。

長時間労働の見直し

日本では、「長時間労働」の問題が非常によく取り上げられます。

労働者の仕事と生活の両立に影響を与え、長時間労働によってメンタルヘルス不調に陥るなどの健康リスクも増加します。さらに長時間労働は、労働者だけでなく、その家族にも大きな負担をかけることになります。

例えば、配偶者が家事や育児などを一人で担当することが増え、家庭内のストレスや不和が生じる可能性があります。

日本の「労働時間の状況」

「日本におけるディーセント・ワーク」を取り上げたとき、この「長時間労働の見直し」は、必ず話題に上がるものです。日本におけるディーセント・ワークでは「長時間労働の見直し」が最重要課題と言えるでしょう。

日本では、パートタイム労働者を除く一般労働者の年間総労働時間は2000時間前後となっています。この状況を踏まえて、「それぞれの人が自分自身の生活をきちんと営めるように、長時間労働を改善する方法はないか」を考えていくことが企業には求められています。

(注)1.事業所規模5人以上
2.総実労働時間及び所定内労働時間の年換算値については、各月間平均値を12倍し、小数点以下第1位を四捨五入した
もの。所定外労働時間については、総実労働時間の年換算値から所定内労働時間の年換算値を引いて算出。

資料出所)厚生労働省「毎月勤労統計調査

ハラスメントの防止

また、職場におけるハラスメント防止への取り組みも、ディーセント・ワークに繋がります。

厚生労働省が2020年に発表した「過去 3 年間のハラスメント相談件数の傾向(ハラスメントの種類別)」で相談があったと回答した割合をみると、、48.2パーセントの企業でパワハラの相談が持ち込まれたとされています。


厚生労働省 「2020年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」 図表3を加工して作成

ハラスメントとは相手に対して言葉や言動などで相手を不快にさせたり、人間としての尊厳を傷つけるなどの迷惑行為を指します。

企業がディーセント・ワークに取り組むことで、このようなハラスメント防止だけではなく、働きやすい環境の推進にも繋がります。

多様な働き方を取り入れる

「ダイバーシティ」「インクルージョン」などの言葉が広まってから、ある程度の時間が経ちました。これは「それぞれの違いを受け入れ、多様性を重視し、そしてその多様性を活かしてだれもが働きやすい世界・企業を作ろう」という考え方です。

これは、ディーセント・ワークの考え方とも通じます。

かつては「寿退社」という言葉に象徴されるように、多くの女性が結婚と同時に会社を退職していました。しかし現在は共働き家庭が増え、出産後の女性が働き活躍する時代です。

また、「男性にも育休を」という考え方が広まってきています。さらにコロナウイルス感染症によるリモートワークの実践などもあり、多くの人が「新しい働き方」を模索しています。

加えて、「短時間正社員制度を導入している」「副業も推進している」「会社に所属しながら、『学び直し』の機会が持てるようにしている」という企業も出てきています。

このような「多様な働き方」を提案して実践していく力は、今後の企業に求められるものです。柔軟な働き方を提示していくことで、ディーセント・ワークが可能になっていきます。

ディーセント・ワークの浸透がもたらすメリット3つ

ディーセント・ワークの考え方と実践は、「そこで働く人」「雇用される側」にとって多くのメリットをもたらすものです。

しかし、ダイバーシティ&インクルージョンやSDGsの考え方が、「雇用される側」だけでなく「雇用する側」にとっても良い影響を与えるのと同じように、ディーセント・ワークの考え方もまた、「雇用する側」にとっても良い影響を与えます。

ディーセント・ワークの浸透と、ディーセント・ワークへの取り組みがもたらす「雇用する側へのメリット」として、下記の3点が挙げられます。
 

  1. 企業イメージの向上
  2. 多様で優秀な人材が集まりやすくなる
  3. 離職率の低下が期待できる

 
ひとつずつ解説していきます。

1.企業イメージが良くなる

ディーセント・ワークへの取り組みは、「企業イメージの向上」に直結します。

ディーセント・ワークを導入~実践している企業は、「透明性が高い企業である」「従業員を大切にする企業である」「革新性がある企業である」などと判断されます。

現在は、顧客側もまた、多くの情報を手に入れることができるため「たとえ安くても、企業イメージが悪い商品は買わない」「多少高くても、企業イメージが良い商品ならば、安心して購入をすることができる」という人も少なからずいます。

このような層に対して、「良い企業イメージを持った状態で売り込んでいくこと」は極めて有用です。

「ESG投資」

また、SDGsの観点から投資を行う「ESG投資」を意識するうえでも、企業イメージは非常に重要です。ESG投資とは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の3つの頭文字を取ったもので、「環境負荷や社会貢献、会社を上手く統治できているか」を指標に投資先を決める投資方法をいいます。

ESG投資の市場規模は年々拡大していますが、ESG投資の指標である「企業統治」と「社会」への取り組みのうちのひとつとして、「ディーセント・ワーク」が挙げられます。

つまりディーセント・ワークによって企業がイメージの向上をはかることは、顧客と投資者、両者の確保に役立つのです。

2.多様で優秀な人材が集まりやすくなる

「働きたいけれど、働ける場所がない」「能力はあるが、リモートワークが必須である」という人にとって、「ディーセント・ワークに取り組む企業」は非常に魅力的に映ります。

たとえば、「同じ年代の人に比べて著しく高い能力を持っているが、介護しなければならない家族がいるため、会社に出勤をして働くことは難しい」という人材や、「引く手あまたであるため、どこの企業に入るか迷っている」という人に対して、「ディーセント・ワークを実施していること」は強烈なアピールポイントとなりえます。

その結果として、多様で優秀な人材が集まりやすくなります。

従業員を大切にする会社に所属する社員たちは、自身のコミュニティ内で、会社のメリットや優位性をアピールすることで、その会社の魅力を広めます。これにより、その会社に就職したいという人材が増加する可能性が高まります。

3・離職率の低下が期待できる

「今の職場の人間関係に不満があるから、新天地に移ろう」
「業界自体が先細りであるから、ほかの業界に移らざるを得ない」
「働き続けていたいが、自分の環境が変わり、フルタイムでの勤務が難しい」
「待遇面で折り合いがつかない」
など、人が離職に踏み切る原因は、さまざまです。

ただ、ディーセント・ワークを実践し、その人の置かれている状況が変わっても、働き続けられる社内体制が整っていれば、離職率は低下が期待できます。

離職は企業側にとって大きなマイナスです。従業員の教育にかけていた時間などが無駄になってしまうからです。そのため、離職を防止し、このような「人に対する投資」を活かしていけるという意味でも、ディーセント・ワークに取り組む意味は十分にあります。

人材の育成や定着に役立つ中長期的計画に「キャリア開発」があります。ディーセントワークと併せて企業がキャリア開発を行うことで、離職率を下げることが期待できます。

【事例あり】キャリア開発とは? 必要性や具体的な方法を紹介

 

まとめ

日本の労働者には、「ディーセント・ワーク」という言葉は縁遠いものに思えるかもしれません。しかし長時間労働やハラスメントなどの問題が依然として存在し続ける以上、ディーセント・ワークの考え方は非常に重要だと言えるでしょう。

いち企業でも取り組めることはありますし、また取り組むことで企業が受けるメリットもあります。企業で取り組むディーセント・ワークは働く従業員にもメリットをもたらします。まずは自分たちのできるところから、一歩ずつディーセント・ワークへの取り組みを考えていきましょう。

Q&A

ディーセント・ワークに関する具体的な取り組みは?
国内外で行われている
ディーセント・ワークに関する取り組みは、世界規模で行われています。たとえばオランダでは、「オランダ・モデル」として、「同一の価値のある労働ならば、同一料金を支払う」として、雇用形態に関わらず、同じ賃金が支払われています。
また、日本では日立製作所などが、若手社員の海外進出支援や、外国人の採用を積極的に行ったりなどの取り組みをし続けています。
ディーセント・ワークの必須要綱は?
「仕事があり続けること」。
ディーセント・ワークを実践するためにはまず「割り振れる仕事があること」が必要です。ディーセント・ワークに限ったことではありませんが、そもそも仕事の量が少なかったり、企業自体の体力がなかったりすれば、ディーセント・ワークの導入~実践は難しくなります。
ディーセント・ワークとSDGsって何か関係があるの?
第8の目標とよく関係している
上でも少し話してきましたが、ディーセント・ワークとSDGsには共通点もあります。特にSDGsのかかげる17の目標のうちの8の「働きがいも経済成長も大切である」とする項目と、ディーセント・ワークには繋がる部分が多いといえます。
ディーセント・ワークを導入するメリットは?
全ての労働者が「人間らしい条件」で働くことにより、社会的な平等が実現されるのがディーセント・ワーク最大のメリットです。
また、労働者の生活水準が向上し、職場でのストレスが軽減されることから健康状態の改善も期待できます。

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