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ビジネスケアラー急増時代に人事・管理職が注目する「キャリアコンサルタント」の役割

監修元村 久美子(国家資格キャリアコンサルタント)

 

少子高齢化が進んでいる現在、「ビジネスケアラー」の問題は、当事者はもちろん企業にとっても大きな問題です。

ここでは、「ビジネスケアラーの抱える問題点」「課題を解決するために、該当者と企業、それぞれができること」について解説していきます。

ビジネスケアラーは2030年にかけて増加の見通し

ビジネスケアラーとは、「家族の介護を、仕事をしながら行っている人」のことを指します。

介護を担う人のうちの約4割はこのビジネスケアラーにあたるとされており、経済的損失は2030年には9兆円近くに達すると予想されています。

企業へのアンケート調査では、「介護をしている正社員がいる」と回答した企業は3社に1社に上ります。特に、従業員数が1001人以上の大企業では、4社に3社がビジネスケアラーを雇用しているという現状が明らかになっています。これは、ビジネスケアラーの問題が多くの企業や個人にとって身近な課題であることを示唆しています。

出典: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業-企業調査 結果の概要」p10

ビジネスケアラーの抱える問題点

では、ビジネスケアラーの抱える問題点とは何なのでしょうか。それについて具体的に解説していきます。

経済的負担

「ビジネスケアラーと経済的損失」について触れましたが、ビジネスケアラーには経済的負担が起こりやすくなります。

介護をしていると、残業や夜勤などをしにくくなったり、急に休みをとらなければならなくなったりすることもよくあります。
さらに、介護費用の平均は月額で約7.8万円、住宅改修費などの一時的な費用を含めると、約70万円の初期費用が必要となるというデータもあります。これらの費用は、家計に大きな影響を及ぼす可能性があります。

出典: SMBC「親の介護費はいくら? 在宅介護・老人ホームの月額費用シミュレーション」

精神的負担

また、介護は精神的・体力的な負担を生み出します。「いつまで続くか分からない」という状況は、経済面だけでなく精神的にも負担となります。育ててくれた親が認知症などになった場合、「あれほどしっかりしていて頼りがいのある人だったのに」と昔の姿を知っているだけに、現状が受け入れられず苦悩する人も多くみられます。

介護には体力的にも負担が増えます。日常生活のあらゆる場面でのサポートや作業に加え、夜間の目配りなどの必要性も増え睡眠不足に陥る場合も見られます。このような精神的・体力的な負担が増えることにより、仕事に支障をきたすこともあります。

キャリアの構築が難しくなる

ヤングケアラーが自身の学業や進路に影響を受けるように、ビジネスケアラーもまた、家族の介護を前提として自身のキャリアを考える状況が多くなります。具体的には、以下のケースが多くみられます。

ケース① 昇進や管理職への打診を辞退

責任の重さや業務負担の増加を懸念し、介護との両立が難しいと判断してキャリアアップの機会を断念する。

ケース② キャリアアップにつながる機会の断念

転勤、海外勤務、長期研修など、自身の成長につながる重要な機会を、介護を理由に諦めざるを得ない。
 
このように、仕事を通じた自己実現や達成感を得る機会が制限されることで、長期的なキャリアプランの構築が難しくなる場合があります。

仕事は生計を立てる手段であるだけでなく、社会とのつながりを持ち、自身の成長や達成感を得るものでもあります。しかし介護のために時間が割かれることで孤立感が生まれたり、社会貢献意欲が削がれたり、自己効力感が失われたりします。

また介護のためにキャリアが停滞すると、介護終了後のキャリアプランを再構築することが大きな課題となる可能性があります。

ビジネスケアラーの問題になると、「仕事を辞めればいい」「介護をしている人が介護に専念できるように、国は手当てを出すべきだ」という論が必ず出てきます。しかし、仕事を辞めることによって自尊心や自己実現欲が損なわれることもあるため、「介護のために仕事を辞められる環境」を整えるだけが、必ずしも最善手とはいえません。

人間関係の不和や課題が起こる

仕事に出ずに介護に専念している人にも「外との関わりがない」「孤独になりがち」という大きな問題があります。

またビジネスケアラーの場合も、「仕事をしながら介護をする」ということから、より時間制限が厳しくなります。場合によっては、「仕事こそなんとかできるものの、プライベートの時間がほとんど確保できない」という状況になることもあります。

新たな人間関係構築の困難

独身者の場合、介護が必要な家族がいることで、自身の時間が制限され、ライフステージを変化させる人間関係の発展が難しくなるケースがあります。また、趣味の時間や友人と会う機会が減り、新たな人間関係やコミュニティの構築がしにくくなる場合もあるでしょう。

既存の家庭生活における課題

既に家庭を持っている場合では、育児や配偶者との時間、家族交流などの機会が制限され、家庭内のコミュニケーションや関係性の維持が難しくなるケースも考えられます。

ビジネスケアラーの問題を解決するためにできること

ビジネスケアラーの問題点を解決するには、個人と企業双方の連携が必要不可欠です。ここからは、それぞれの立場からできることを解説します。

個人に求められること

情報収集と相談

日本では、支援制度を知っているか知っていないかで介護の難易度は大きく変わります。そのため、自分がビジネスケアラーである(あるいはビジネスケアラーになる)場合は、情報収集をしっかり行うことが大事です。

また、情報収集だけでは解決できない場合や、精神的に追い詰められたと感じた時には、迷わず行政の窓口や専門機関に相談し、助けを求めることが大切です。専門家と連携することで、個別の状況に応じた適切な支援や、有益な情報にアクセスできます。

離職は慎重に検討

「時間がないこと」「精神的余裕がないこと」で、離職を選択肢に含めるビジネスケアラーも少なくありません。

しかし一度離職してしまうと、元の立場に戻ることはなかなか難しくなりますし、経済的な不安も大きくなります。場合によっては、「自分の道を失ったこと」「経済的な不安」によって、余計に精神的ストレスが増大することもあります。

そのため、まずは利用できる支援やサービスがないかを十分に検討することが推奨されます。

企業に求められること

多くの企業がビジネスケアラーを抱えている現在、企業に求められるのは主に、制度の充実と社内理解の促進です。

柔軟な働き方を可能にする制度の整備

リモートワークやフレックスタイムの導入など、企業が柔軟な働き方を可能にする制度を整備することで、ビジネスケアラーが働き続けやすい環境を整えることができます。

研修などのサポート体制の構築

ビジネスケアラー向けの研修を実施するのもよいでしょう。その研修で公的なサービスを照会したり、周りの社員への理解を求めたりするようにします。

会社が、「介護をしながら働き続ける人を全力で支える」という姿勢を打ち出すことは、ビジネスケアラーの精神的負担を大きく軽減し、エンゲージメントの向上にもつながります。

制度があっても「離職」が防げない理由

多くの企業が介護休業制度を整えていますが、それでも離職者が後を絶たないのはなぜでしょうか。そこには、人事担当者や上司だけでは解決できない「心理的な壁」があります。

  • 「迷惑をかけたくない」という心理 : 周囲への負担を懸念して、制度を利用する前に「辞める」という決断を下しがちです。
  • キャリアの不透明感 : 介護と両立しながら、どうやってこれまでのキャリアを維持・発展させるか、上司も本人も描ききれない現状があります。

ここで、「キャリアコンサルタント」という専門家の介入が、組織の損失を防ぐ大きな力となります。上司や人事には「迷惑をかけたくない」と本音を隠してしまう社員も、守秘義務を持つキャリアコンサルタントには胸の内を明かせるケースが多くあります。キャリアコンサルタントは、本人の「働き続けたい」という意志を言語化し、企業側との橋渡しをすることができます。

なぜ今、人事や管理職に「キャリアコンサルタント」が必要なのか

国家資格であるキャリアコンサルタントは、ビジネスケアラー支援において、以下の3つの役割を果たします。

  1. 「個」と「組織」のコーディネーション :本人の「働き続けたい」という思いと、会社の「戦力として期待したい」という意向。この間に入り、中立的な立場で現実的な着地点に誘います。
  2. セルフ・キャリアドックの実施:介護に直面した社員が、自分のキャリアを「一時停止」ではなく「変化(トランジション)」と捉え直すための支援を行います。これにより、モチベーションの低下を防ぎます。
  3. 管理職の負担軽減 :部下から介護の相談を受けた際、上司がすべてを背負うのは困難です。管理職がキャリアコンサルティングの技法を学ぶ、または専門家につなぐことで、チーム全体の心理的安全性が高まります。

人事担当者やリーダーがキャリアコンサルタントの知見を持つことで、社員や部下の意向を早い段階でキャッチし、会社との調整やサポート体制の整備を適切に行うことができるでしょう。これは、社員や部下に「理解してもらえている」という安心を与え、離職防止につなげることが可能です。また、こういったスキルは、社内のエンゲージメント向上に直結する「一生モノの武器」になるはずです。

まとめ

少子高齢化が進んだこともあり、働きながら介護をするビジネスケアラーも多くなってきています。現在、3社に1社がビジネスケアラーの正社員を抱えているという現状があります。

ビジネスケアラー問題は、経済的な不安やキャリア構築が困難になること、新しい家庭を作ることや新しい家庭を維持することが難しくなるリスクが高いといえます。

このような状況に陥ることを避けるためには、ビジネスケアラー当事者は「情報収集すること・助けを求めること・辞職は最後の手段とすること」が求められます。また企業は、制度を充実させ、介護をしながら働き続けられる環境を整えることが不可欠といえます。その制度を形だけのものとせず、社員がよりよいキャリアを築くために、キャリアコンサルタントの役割は大きいといえるでしょう。

Q&A

ビジネスケアラーとは?
ビジネスケアラーとは、働きながら介護をする人(しなければならない人)のことを指します。
介護をしている従業員は全体の何割くらい?
企業のうち、3社に1社はビジネスケアラーの正社員を抱えています。また企業規模が大きければ大きくなるほど(制度が充実していることもあり)、ビジネスケアラーを抱える企業の割合は多くなり、1001人以上の企業のうち4分の3はビジネスケアラーの正社員を抱えています。
企業がビジネスケアラーを支援するメリットは何ですか?
企業が両立支援制度を整備することは、従業員の離職防止につながり、優秀な人材の確保や定着に貢献します。また、社員が安心して働き続けられる環境を整えることは、エンゲージメントの向上にもつながります。

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監修者

元村 久美子

2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)
広告会社、大手化粧品会社宣伝部にてマスコミュニケーションに携わる。
現在は講師、専門相談員として就労支援に従事。

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