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キャリア - 2023.01.27更新 / 2022.12.09公開

【これでわかる】従業員のキャリア形成を支援するセルフ・キャリアドック制度とは?

「セルフ・キャリアドック」という言葉をご存知でしょうか? キャリア形成が重要視される傾向にある近年、様々な企業が取り入れている制度です。

このページでは、「セルフ・キャリアドック」とはどういった制度なのか説明し、導入されるようになった背景、メリットや具体的な導入例を解説していきます。

セルフ・キャリアドック制度とは

セルフ・キャリアドックの定義

セルフ・キャリアドックとは、働き手が自主的にキャリアについて考えていけるよう、企業を中心に環境整備を行うという取り組みです。日本の人材力を強化するための、キャリアアップ支援です。

セルフ・キャリアドックは、2015年、政府が「日本再興戦略改訂」にて提示したものの1つです。(参考:日本再興戦略改訂2015 2016年2月5日 「産業競争力の強化に関する実行計画」(2016年版)

厚生労働省では以下のように定義しています。

セルフ・キャリアドックとは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み、また、そのための企業内の「仕組み」のことです。

引用:厚生労働省  |  「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開

企業内で行われる「定期面談」「業績評価面談」などとの違い

セルフ・キャリアドックは、企業を中心としたキャリアアップ支援の取り組みです。企業内のキャリアアップ支援というと、上司や人材育成担当との定期面談や業績評価面談、社内研修などを想像する方もいると思います。これらとの違いは何なのでしょうか。

専門家であるキャリアコンサルタントが行う

セルフ・キャリアドックは、社内外のキャリアの専門家が、キャリアコンサルティング面談を行い、従業員の心理的な自己洞察を促し、キャリア形成について認識を深め、明確にさせるものです。キャリアの専門家とは、国家資格であるキャリアコンサルタントなどを指します。

セルフ・キャリアドックの”ドック”は、人間ドックと同じ意味合いです。健康診断と同様に、定期的に専門家と一緒にキャリアについて考える場を設けるものなのです。自分自身だけ、上司といった身近な人ではなく、専門家と行うというところがポイントなのです。

なぜセルフ・キャリアドックが必要なのか

そもそも、なぜセルフ・キャリアドックが設けられるようになったのでしょうか。背景と導入のメリットをご紹介します。

セルフ・キャリアドック制度が導入された背景

近年、企業を取り巻く環境は激しい変化を見せ、働き手に求められるあり方も変わってきています。

例えば、企業間競争の激化です。経済のグローバル化、顧客ニーズの変化などにより、企業間、国際間の競争は高まり、各企業で経営悪化の可能性も高まっています。企業は、厳しい環境を生き抜くために、高い人材力を求めています。

働き手の自発的な能力開発の促進

技術革新についても同様のことが言えます。企業がこれまでの事業やビジネスモデルを一新する必要性に伴って、働き手にも求める能力が全く変わってくる事例が起きています。

日本の労働人口は減少傾向にあり、将来的に十分な労働力を確保するのが難しくなることが予想されています。複雑化する経済の中で、限られた人材を十分に活用し、生産性を高めるために、働き手の自発的な能力開発、キャリアの充実が重要視されるようになっているのです。そのために導入された取り組みの1つが、セルフ・キャリアドックなのです。

セルフ・キャリアドック導入のメリット

企業や従業員が抱える問題はそれぞれです。セルフ・キャリアドックでは、キャリアコンサルタントなどの専門知識を持った方が、個々の方針や課題に合わせて対応します。企業ごと、従業員ごとに得られるメリットも異なってきますが、共通していることに以下が挙げられます。

キャリアの充実

従業員にとっては、自らのキャリア意識や仕事に対するモチベーションが向上する、キャリアが充実するといったメリットがあります。キャリアコンサルティング面談を受けた方のアンケート結果から、高い成果が出ていることがわかっています。従業員のモチベーションが上がり、キャリアが充実することで、人材の定着や活性化が促され、企業全体の活性化にもつながります。

セルフ・キャリアドックの導入は、働き手・企業のどちらにとってもメリットがあるのです。

セルフ・キャリアドック導入の効果

セルフ・キャリアドックを導入した企業の具体的事例を2つご紹介します。この他にも、様々な企業が導入結果を報告しているので、参考にしてみてください。
(引用:セルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業好事例集

株式会社インテージ:情報サービス業、従業員数1,006人(2019年時点)

導入目的
質の高いキャリアコンサルティングによって、「今後のキャリアが描けない」「方向性が定まらない」等で悩んでいる社員が今後の方向性を考えられるようになることを期待。社員のモチベーション維持向上、スキルアップ、キャリアアップにつながるとともに、会社の成長や生産性の向上につなげたいと考え導入。

具体的な取り組み
社内のキャリアコンサルタントが社員のキャリアデザイン内容を確認し、支援が必要と見受けられた正社員のうち希望者に実施。希望者のプライバシーに配慮し、個別に資料を配布・実施。

結果
希望者が真摯に自身のキャリアに向き合う状態を作れた。キャリアコンサルティング面談の「満足度」「有効性」「今後の利用意向」はいずれも100%。

従業員からは、「仕事だけでなくライフの部分もからめて、キャリアコンサルティング面談をしていただけました」「自分が表明できるキャリアビジョンは何もないと思っていたが、形にすることができました 」「仕事に対する思いや価値観とともに選択肢まで整理できました」「今まで、漠然と考えていたことを具体的に言語化して考えるよい機会になりました 」「今後の働き方について、挑戦する領域に気づけました」といった声。

結果を受けて、経営陣やマネジメント職からは、「部下が悩んでいるようなのでお願いしたい」といった声や、「キャリアコンサルティング面談が離職につながるのではと懸念があったが、実施目的と効果を理解できた」という声があった。

株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン:サービス業、従業員数191人(2019年時点)

導入目的
人材育成方針(求められる人材像)が成文化され、当社従業員としての価値観や行動基準を周知する必要性・従業員サーベイの厳しい結果を受けて、エンゲージメントを向上させうる人事施策の要請があったため。従業員が自身のキャリア形成する上で、自らの意思でこの会社にいる存在意義を感じられていないのではないかという懸念があった。

キャリア支援を会社が行うことで従業員が会社に必要とされている自己肯定感を高めることを期待。従業員のキャリア形成につながるアクション(積極性や変化対応を意識した行動)が不足しており、組織が活性化されていないと感じていた。

具体的な取り組み
セルフ・キャリアドック導入の座学ガイダンスを実施、中途入社社員に対して人事による中途入社後の適応フォローと研修の一環(キャリア教育)として、参加を要請。個別のキャリアコンサルティング面談、結果を人事担当者にフィードバック。

結果
従業員からは、自己理解が進んだことで、今後のキャリア形成について考えが至るようになったと報告があった。不安や迷いが解消された、今後やるべきことが明確になったなど声があがり、対象者全員が満足と答えた。

経営陣からは、従業員の声や課題が可視化されたことで、具体的な施策の企画につなげることができ、継続したいとの声があがった。

セルフ・キャリアドックの導入・実施手順

実際にセルフ・キャリアドックを導入する際の流れ、実施の手順を簡単にご紹介します。

① 人材育成ビジョン・方針の明確化

まずは、経営者のコミットメントが必要不可欠です。セルフ・キャリアドックを行う目的を従業員に明示することが求められます。そのためには、企業を取り巻く環境や、従業員が抱える課題を適切に把握し、企業理念や方針とのギャップを明確にする必要があります。あるべき人材像を設定し直し、人材育成ビジョン・方針に落とし込んで、従業員に提示します。

② 実施計画の策定

人材育成ビジョン・方針に基づいて、セルフ・キャリアドックをどのように進めていくのか具体的な計画を策定します。実施内容の詳細は企業によって様々ですが、キャリア研修とキャリアコンサルティング面談、この2つを検討することになるでしょう。

キャリア研修:従業員がキャリアについての理解・関心を深めることが期待できます。入社時、入社◯年後、など一定段階ごと定期的に行う方法や、若手従業員、育児・介護休業復帰者、昇進・昇格する社員など特定条件下にある従業員を対象とする方法もあります。

キャリアコンサルティング面談:狙いを明確にし、対象従業員の理解を十分に得た上で実施します。内容はもちろん重要になってくるほか、実施の時期、場所、時間なども考慮する必要があります。面談後のフォローアップを行うことで、効果の把握ができるほか、追加実施できる施策の企画につなげることも可能です。

③ 必要なツールの整備

キャリアコンサルティング面談で使用するシート、報告書、アンケート用紙など整備しておく必要があります。また、進捗管理を行うための管理表なども、作成することをおすすめします。各ツールの一般的なフォーマットは、厚生労働省のホームページなどから確認できますので、参考にしてみてください。

④ 企業内インフラの整備

企業の中での実施責任者を定めておく必要があります。これは人事担当者に限る必要はありません。部門やポスト、様々な選択肢の中から適任者を選定しましょう。

また、セルフ・キャリアドック実施を社内の規定・通達として明文化し、経営陣、社内規則・通達、実施責任者、従業員へと、スムーズに浸透する環境を整備することも必要です。

それから、キャリアコンサルタントの確保、もしくは育成も不可欠です。社外キャリアコンサルタントに依頼する場合、企業の理念や人材育成ビジョンを十分に共有する機会を設ける必要があります。社内でキャリアコンサルタントを一から育成する場合は、資格の取得など時間が必要となります。

⑤ セルフ・キャリアドックの実施

計画、これまで整備したツールを用いて実施に進みます。キャリア研修やキャリアコンサルティング面談など、実施方法については②実施計画の策定でも説明しました。重要なのは、従業員が目的を十分に理解した上で実施すること、そのためのセミナーや研修を行うこと、対象者が安心した環境で面談などを受けられること、その後のフォローをしっかりと行うことです。

⑥ フォローアップ

キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティング面談の内容について個別の報告書を作成します。人事部門はこれらの報告をまとめ、経営陣に伝えます。要点は大きく分けて、従業員の傾向、組織として対応が必要と思われる重要な事案の2つです。

キャリアコンサルタント、人事部門、経営陣とで確認をし、必要な従業員に対しては追加の面談を行います。また、上司や関係部署との連携対応を検討します。組織的な改善が必要であると明確になったものについては、改善措置を従業員へ周知し、取り組んでいく必要があります。

浮かび上がった様々な課題を解決するために、セルフ・キャリアドックを継続的に実施して改善につなげることが重要です。

費用や助成金について

セルフ・キャリアドック導入にあたって、必要になるものや整備するものについては上記で触れました。具体的な導入費用については、どういったキャリアコンサルタントに依頼するか、何人の従業員に対して実施し、どの程度の人件費がかかるかなど、企業によって異なってきます。

外部のキャリアコンサルタントへの依頼費用などは、ホームページなどで明示されているケースが多いので、参考にしてみると良いでしょう。

また、継続して人材育成に取り組んでいる企業が利用できる、人材開発支援助成金(制度導入助成)というものがあります。対象となる取り組みに応じて一定額の助成が受けられるので、利用を検討してみてください※2021年度までは、セルフ・キャリアドック制度導入自体に上乗せされる助成金がありましたが、そちらは廃止され、定期的なキャリアコンサルティング制度に対する助成金と変更になっています。

まとめ

このページでは、セルフ・キャリアドックの定義や、導入されるようになった背景、メリットや具体的な導入例をご紹介しました。

従業員のキャリア形成について、取り組まなくてはという意識はあるけれども、何から始めてよいかわからないという企業様、人事担当者様も多いのではないでしょうか。

セルフ・キャリアドックは、規模、業界問わず、様々な企業で導入され、効果を発揮している取り組みです。ぜひ、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
 

Q&A

セルフ・キャリアドックとは何ですか?
企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み、また、そのための企業内の「仕組み」のことです。
上司や人事担当者と行う「定期面談」「業績評価面談」などとの違いは何ですか?
セルフ・キャリアドックは、社内外のキャリアの専門家がキャリアコンサルティング面談を行い、従業員の心理的な自己洞察を促し、キャリア形成について認識を深め、明確にさせるものです。キャリアの専門家とは、国家資格であるキャリアコンサルタントなどを指します。専門家が行うというところがポイントです。
セルフ・キャリアドック導入のメリットは何ですか?
企業ごと、従業員ごと様々ですが、共通するものとして以下が挙げられます。
・従業員自らのキャリア意識や仕事に対するモチベーションが向上する、キャリアが充実する。
・従業員のモチベーションが上がり、キャリアが充実することで、人材の定着や活性化が促され、企業全体の活性化につながる。
セルフ・キャリアドック導入の効果が知りたいです。
厚生労働省がまとめているセルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業好事例集に導入した企業の事例が掲載されていますので、参考にしてみて下さい。

 

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