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「ノーマライゼーション」とは? 企業が取り組むメリットと事例を解説

「ノーマライゼーション」とは? 企業が取り組むメリットと事例を解説

「誰もが自分らしく生き、社会に参加できる世界」という理念は、現代においてその重要性がますます高まっています。この考え方の根底にあるのが「ノーマライゼーション」です。この記事では、ノーマライゼーションの基本的な意味や具体的な事例、そして企業がこの概念を取り入れることのメリットについて詳しく解説していきます。

ノーマライゼーションとは、誰もが同じように暮らせる社会こそが「ノーマル」であること

ノーマライゼーションとは、「年配の方や障がいのある方も含め、誰もが年齢や障がいの有無に関わらず、当たり前に地域社会で生活し、自分らしく活躍できる社会こそがノーマル(正常)である」という考え方、およびそれを実現するための取り組みを指す言葉です。

このノーマライゼーションの考え方は、単純に「年配の方・障がいを抱えた方に特別な配慮をしよう」とするものではありません。彼らが主体的に物事を決めて、対等に能力を発揮できる社会にしようとしたものであるため、「補助具や周りの理解を得ながらも、自主的かつ自立的に、生活や仕事をしていくこと」を目的としています。

ノーマライゼーションの歴史

ノーマライゼーションの歴史は意外にも古く、今から70年ほど前にはその基礎が出来上がっていました。その提唱者の一人であるデンマークのニルス・エリク・バンク・ミケルセンは、かつて知的障がい者施策に携わっていました。彼は第二次世界大戦中にナチスの収容所に入れられた経験を持ち、解放後に知的障がい者の置かれた状況がその収容所と酷似していると感じます。この実情から、「彼らがより人間らしく生きられる社会を築く必要がある」と強く訴え、具体的な方法を模索し始めました。

彼の考え方は広く浸透し、やがてスウェーデンのベンクト・ニィリエに引き継がれます。日本の明治学院大学の名誉博士でもあったベンクト・ニィリエは、バンク・ミケルセンの提唱したノーマライゼーションの考え方をより体系化して、世界に広めていきました。

ノーマライゼーションの8つの原則

ベンクト・ニィリエは、「ノーマライゼーションの8つの原則」として、以下を挙げています。
 

1.1日の普通のリズム
朝起きて、着替えをして、外に出かけ、適切な時間に食事をとる

 

2.1週間の普通のリズム
週末にはリラックスしたり楽しく遊んだりして過ごし、月曜日になればまた仕事や学校に行く

 

3.1年の普通のリズム
イースターや夏季休暇、クリスマスなど、季節に応じたイベントや食事、スポーツなどを楽しむ

 

4.普通の成長過程をとること
少年期は外で遊び、青年期は友人やパートナーと楽しみ、成人したら仕事などに責任をもって取り組み、年老いてからは過去から得た知識を活かす

 

5.自由と希望を持ち、周りからもそれを尊重される
大人になれば好きなところに住み、友人と遊ぶ自由を持ち、周りの人もそれを認めている世界に住む

 

6.異性に対して興味を持つ
年頃になれば異性に対して興味を持ち、当たり前に恋愛をして、当たり前に結婚しようと考える

 

7.平均的な経済水準のなかにあること
障がいに関わらず、平均的な収入を得て、経済的な安定を図り、それによって適度な範囲で必要なものを買える

 

8.普通の地域で、普通の住宅に住むこと
障がい者だけで作られた大きな施設などに住むことなく、個別に、地域に溶け込みながら、当たり前の住居を得る

 

現在の考え方に照らし合わせると、一部の原則は現代の多様性を尊重する視点から再考の余地があるものの、社会とのつながりが希薄になりがちであった障がいのある方に対して、「当たり前の生活を」と呼びかけた当時のノーマライゼーションの提唱は、非常に画期的なものであったと言えるでしょう。

ちなみに日本では、1995年に「ノーマライゼーション7か年戦略」として、ノーマライゼーションに取り組む旨が発表され、その理念は、現在の障害者基本計画にも引き継がれています。

「ノーマライゼーション」とは? 企業が取り組むメリットと事例を解説

ノーマライゼーションの事例

70年近くにわたって提唱され続けてきたノーマライゼーションの事例のなかには、現在は当たり前になっているものもあります。

バリアフリーやユニバーサルデザイン

今は、病院のみならず一般的な施設であっても、バリアフリーデザイン(年配者や障がいを持つ人にとっても使いやすいデザインであること)やユニバーサルデザイン(国籍などに関わらず、だれもが使いやすいデザインにすること)を意識して組み立てることが当たり前になっています。

例えば、点字やスロープなどがその一例です。なお、しばしば誤解されがちですが、バリアフリーは単に「段差をなくす」ことだけを指すのではありません。例えば、着脱が難しい靴を履く際に座れるよう、適切な高さの椅子を設けるなど、特定の障壁を取り除くための工夫全般を指します。

このほか、身近なものでは、低床バス、音声案内付き信号機、多機能トイレなども挙げられます。

雇用に関する法制度

ノーマライゼーションは、「配慮をすること」だけが目的ではなく、「働くこと、また働くことによって自己実現すること」を目的としています。

この目的を達成するため、国は障害者雇用促進法や高齢者雇用安定法などの法制度を整備し、彼らが「普通に」働ける場所を獲得できるよう、具体的な取り組みを後押ししています。

障害者雇用促進法は、企業に一定割合の障がい者を雇用する義務を課すことで、雇用機会を創出する法律です。高齢者雇用安定法は、定年制の廃止、定年の引き上げ、継続雇用制度の導入のいずれかの措置を企業に義務付け、長く活躍できる機会を提供するための法律です。

これらは、単に雇用数を増やすだけでなく、個々人が社会の一員として活躍し、その才能や経験を社会に還元できる環境を築くための重要な試みと言えるでしょう。

取り組みは「教育」から始まっている

ノーマライゼーションの考え方は、学齢期から始まっています。

かつては障がいの有無で教育を受ける場所を変えていましたが、2007年からは「特別支援学校教育」として、従来の盲・聾・養護学校が一本化され、障がいのある子どもたち一人ひとりのニーズに応じた専門的な教育が強化されました。

さらに、この特別支援学校教育の発展を土台として、「インクルーシブ教育」の推進に向けた環境が整えられてきました。インクルーシブ教育とは、「誰もが地域の中で共に学び、共に育ち合うこと」を目指す考え方です。障がいの有無に関わらず、すべての子どもたちが同じ場で共に学び、それぞれの教育的ニーズに合わせた多様な支援を受けられる学校づくりを進めています。

これらの施策は、障がいを持つ子どもだけではなく、その子どもたちと共に生きる障がいを持たない子どもたちにとっても有益なものであると考えられています。

ノーマライゼーションに企業が取り組む必要性やメリット

ノーマライゼーションの考え方を企業が取り入れる必要性やメリットについて紹介します。

法定雇用率の対応

上で述べた通り、現在は障害者雇用促進法が定められています。これは、障がいのある方々が社会で活躍できる機会を保障し、多様な人材が共に働く環境を創出することを目的としたものです。2025年現在、在従業員40人以上の企業には、全従業員の2.5パーセント以上を障がい者で構成するよう義務付けています。

制度への対応が必要という面もありますが、この目標達成に向けて企業が取り組むことは、社会貢献に繋がるだけでなく、多様な視点を取り入れることで組織の活性化にも貢献します。

多様な人材を獲得できる

ノーマライゼーションの考え方を取り入れることで、企業は障がいの有無に関わらず、幅広い層から優秀な人材を雇用できるようになります。例えば、通勤に困難があるものの専門スキルなどの優れたスキルを持つ人材に対して、リモートワークといった柔軟な働き方を提案すれば、その才能を組織に取り込むことが可能です。

多様な背景を持つ従業員が集まることで、これまでになかった視点や発想が生まれやすくなり、製品開発やサービス改善におけるイノベーションの加速に繋がります。また、ノーマライゼーションを企業文化として根付かせている企業は、従業員からの強い信頼感を得られます。これは、従業員が「自分らしく安心して働ける」と感じる環境が整っている証拠であり、結果としてエンゲージメントの向上や、優秀な人材の定着に大きく貢献し、企業の競争力そのものを高めることにも繋がるでしょう。

 

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企業イメージが向上する

ノーマライゼーションへの積極的な取り組みは、企業のイメージを大きく向上させます。近年、ESG投資が拡大していることからもわかるように、企業統治や社会貢献といった倫理的な側面は、投資家からの評価に直結し、企業の持続可能性を示す重要な指標となります。

また、特にBtoC企業にとって、カスタマーが抱くイメージは売り上げを大きく左右します。ノーマライゼーションを徹底し、「誰もが働きやすい企業」という姿勢を打ち出すことは、社会的な信頼と共感を生み出し、消費者の購買行動へと繋がりやすくなります。これは、ブランド価値を高め、長期的な企業成長の基盤となるでしょう。

「ノーマライゼーション」とは? 企業が取り組むメリットと事例を解説

ノーマライゼーションの考え方は、企業にとっても重要

「だれもが自分らしく活躍できる社会」を目的として提唱され始めたノーマライゼーションの考え方は、70年もの時をかけて広がりました。現在は当たり前となったバリアフリーも、ノーマライゼーションの概念によってもたらされたものだと言えます。

ノーマライゼーションの考え方は、障がいのある人のみならず、企業にとっても意味のあるものだと言えるでしょう。

Q&A

ノーマライゼーションとは?
ノーマライゼーションとは、「年配の方や障がいのある方も含め、誰もが年齢や障がいの有無に関わらず、当たり前に地域社会で生活し、自分らしく活躍できる社会こそがノーマル(正常)である」という考え方、およびそれを実現するための取り組みを指す言葉です。
企業がノーマライゼーションを取り入れるときに気を付けるべき点とは?
「すべての従業員が」働きやすい環境を整えること、助成金を上手く利用すること、社内であらかじめ研修を行うことが挙げられます。ノーマライゼーションを取り入れる際には、「障がいのある人はもちろん、障がいのない人も働きやすい環境にすること」が大切です。そのためには事前に社内でしっかり研修を行うことが大切ですし、仕事を細かく分類してマニュアル化することも重要です。
また、法定雇用率を達成している企業には報奨金なども出るので、これを上手く活用することも求められます。
ノーマライゼーションとバリアフリー、ユニバーサルデザインの違いは何ですか?
ノーマライゼーションは「誰もが普通に暮らせる社会」という大きな理念を指すのに対し、バリアフリーやユニバーサルデザインはその理念を実現するための具体的な手段やアプローチです。バリアフリーは特定の障壁を取り除くことに焦点を当て、ユニバーサルデザインは最初から誰もが使いやすいように設計することを目的としています。これらはノーマライゼーションを実現するための重要な要素であり、相互に関連しています。
ノーマライゼーションを進める上での課題やデメリットはありますか?
ノーマライゼーションは理想的な社会を目指すものですが、実現にはいくつかの課題があります。例えば、多様なニーズに応えるためのコストや資源の確保、既存の制度や意識改革にかかる時間、個別の状況に合わせた柔軟な対応の難しさなどが挙げられます。また、個々の障がいの特性や必要とする支援は多岐にわたるため、画一的な対応ではかえって不利益が生じる可能性も考慮する必要があります。

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