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キャリアコンサルタント資格 - 2023.10.12公開

あらゆる場面で活きるナッジ理論とは?人材育成など事例を紹介

「ナッジ理論」についてご存知でしょうか?

「ナッジ」とは、人をより良い方向へと促すことです。行動を強制するのではなく、きっかけを与えるというアプローチは、様々なシーンで使われています。

本記事では、ナッジ理論とは何か、フレームワークや身近な例などを交えて、わかりやすく解説します。

ナッジ理論とは何か

ナッジ理論とは

ナッジ理論は、「強制的ではなく自然と合理的な選択肢を選ぶようにする」というものです。

そもそも「ナッジ (nudge)」は、「注意を引くため・合図をするためにそっと突く」「人や物を押して動かす」などの意味を持つ単語です。具体的な動作だと、肘でそっとつつくといったことが、ナッジと呼ばれます。

また、「ナッジ (nudge)」には、小さなきっかけを与えることで、人の行動を変える、望ましい方向へ促すというニュアンスが含まれます。

ナッジ理論の提唱者

ナッジ理論は、2008年に、米国の経済学者リチャード・セイラー教授と法学者のキャス・サンスティーン教授によって提唱されました。

2017年には、セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことで広く注目されるようになりました。

ナッジ理論は行動経済学に分類される新しい理論です。歴史は浅いですが、既に世界の様々な場所・領域で用いられています。

ナッジ理論のベースである行動経済学とは

ナッジ理論を包括している行動経済学とは、そもそも何なのかを解説します。

行動経済学は、比較的新しい学術分野で、旧来の経済学と心理学を融合させる形で登場したものです。

経済学は、経済活動に参加している全ての人や組織が合理的であるという前提のもと、事象を追求していくものです。個人・組織の損得や、選択される行動パターンの可能性などを計算し、数値化された理論のもと検証することができます。

一方で、人が必ずしも合理的な判断や行動を取らないという事実もあり、その時々の感情や、何となくという直感が、人々の選択に大きく作用しています。そして、人々の行動は経済活動にも影響を及ぼします。

合理性を前提に経済を追求するのが従来の経済学であるのに対し、非合理性、つまり人々の心理といった要素も加味して経済活動を観察し、さらに経済活動が人々にどのような影響を及ぼすかを追求するのが、行動経済学なのです。

また、様々な可能性を加味するという意図があるため、脳科学や社会学などと合わせて考えられることもあります。

ナッジ理論のフレームワークを簡単解説

ナッジ理論のポイントをまとめたフレームワークというものがいくつかあります。中でも、活用しやすく様々な場面で効果的といわれている「EAST」というフレームワークをご紹介します。

ナッジ理論のフレームワーク「EAST」

「EAST」は、ナッジ理論を用いる際の重要なポイント、「Easy」「Attractive」「Social」「Timely」の頭文字です。それぞれ解説していきます。

「Easy」

簡単・簡潔であることが重要ということです。複雑な手順があれば削る、選択肢が多ければ減らす、もしくは選択しやすい形式にするなど、できるだけ簡単にします。

「Attractive」

「Attractive」とは、「人を惹きつける」「魅力的な」「興味をそそる」などを意味する言葉です。ナッジ理論においては、「人の注意を引いて行動を促す」ことを指します。

人の行動には、損失を回避したい気持ちが強く作用するとされています。

例えば、「こういった生活を送っていると健康に悪い」という情報があると、それを回避したいという考えが強くなるのです。

損をする情報を与えることも、人の行動を促す上で有効な手段なのです。

「Social」

人の社会性を利用するというものです。人間は社会性のある生き物なので、周囲の行動を指標として捉え、自身の行動を選択する傾向があります。

社会的なトレンドだと認識することで、自身も同じ行動を取ったり、商品を購入したりすることがあるのです。

「Timely」

情報を提供するタイミングが重要ということです。今の自分に必要かどうかは、人が選択する際の重要な要素です。そのため、場合によっては、社会的なニーズや個々人のニーズと分けて考える必要があります。

ナッジ理論を使用するメリット

ナッジ理論は、規則などによって強制をせずに、人々により良い選択を促すことができます。

例えば、企業の宣伝活動やマーケティングで活用すれば、消費者の意思決定にうまくつなげることができます。

人材育成や組織マネジメントなどでは、従業員の行動を自然に良い方向へ変化させる効果も期待できます。

セイラー教授が提唱したフレームワーク

NUDGES

NUDGESはセイラー教授とサンスティーン教授が提唱したフレームワークで、EASTと比較するとより具体的になっています。

身近なナッジ理論の具体例を紹介

ナッジ理論は私達の日常の様々なシーンに取り入れられています。

ナッジ理論の身近な例

ゴミ放棄など衛生問題を解決

街や商業施設に設置されているゴミ箱には、ナッジ理論を効果的に活用しているものが多くあります。

■ ゴミ箱の例
公共のゴミ箱は、人の動線を意識したものが多くあります。

捨てたいと思ったときにすぐ見つかる場所にある、捨てやすい場所・向きに設置されているというのは、シンプルですが重要なことです。

日本では見慣れたものになっていますが、空き缶やペットボトルの投入口に傾斜がついていること、投入口の形によって捨てるものがわかるようになっていることは、捨てやすさ重視の工夫です。

ゴミを捨てる”簡単さ”「Easy」が重要となっています。

また、キャラクターのイラストなどが施されており、思わず近づきたくなるようなデザイン性の高いものも増えています。人々の関心を引くものにすることで、見つけやすくなる、近づきやすくなるという工夫が見られます。

■ タバコの吸い殻を投票に活用
公共の場の衛生を保つ例では、NPO団体「Hubbub」がロンドンで行った、タバコの吸い殻でサッカー選手の投票を行う仕掛けが有名です。

市民の関心が高いサッカーの話題を使って、吸い殻を票代わりにするという工夫をしたことで、吸い殻のポイ捨てが大きく減少したとされています。

同様の投票の仕組みを利用した仕掛けは2022年、渋谷でも行われました。吸い殻のポイ捨てが9割減少したと報告されています。

厚生労働省「受診率向上施策ハンドブック」でナッジ理論を活用したがん検診受診率向上を推奨

ナッジ理論は行政にも活用されています。厚生労働省が公開しているがん検診の受診率アップのためのハンドブック、「受診率向上施策ハンドブック」では、まさにナッジ理論を活用した取り組みが促されています。

日本では、死因の割合の多くをがんが占めているため、検診の受診料を下げるなどの試みを行いましたが、実際の受診率の上昇には結びつきませんでした。

「これまでより安く、リスクの高いがんの検診を受けられる」にも関わらず、国民の行動にはさほど影響がなかったのです。

そこで、国民が検診をするためのきっかけを提供する、ナッジ理論を用いたがん検診受診への取り組みが注目されました。

厚生労働省の「受診率向上施策ハンドブック」では、がん検診を受けない人の心理・行動パターンが説明されています。また、ナッジ理論によって、どのように解決することができるか具体例が掲載されています。

これらを参考に、各地方自治体や医療機関が様々な取り組みを開始しており、実際に受診率を高めたという成功例も出ています。
出典)厚生労働省 受診率向上施策ハンドブック

【あわせて読みたい】

【アルバート・エリスのABC理論とは?】ネガティブをポジティブに変えるために

 

ナッジ理論をビジネスで活用した例

マーケティングでの活用

メールマガジンの配信は、消費者に商品やサービスの情報を届ける有効な手段です。しかし、メールマガジン配信のためには、まずは登録をしてもらう必要があります。

多くの企業では、「商品を購入したタイミングで登録できるようにしている」「新規会員登録と同時にメルマガ登録できるようにしている」など、利用者が簡単に手続きできる導線にするなど工夫しています。

メールマガジンにナッジ理論を取り入れることで、メールマガジンを希望しない、解除したいという意志の強い利用者以外に、広く登録を促すことができ、商品・サービスをアプローチする機会を増やすことができます。

マーケティングにおけるナッジ理論活用法

EASTフレームのマーケティングでの活用を、少し見ていきましょう。
それぞれ、上段が通常のパターン、下段がナッジ理論を活用したパターンです。
 

EASY

予約したいコースを選んでください

→ 丸ごと込み込みコースの予約日を選んでください

あらかじめ丸ごと込み込みコースを用意することで、コースを選ぶ手間を省いています。
 

ATTRACTIVE

今回ご来場いただいた方には次回も参加できる特典あり

→ 今回ご来場いただけない場合は、次回も参加できる特典をお付けすることができません

「来場したらもらえる」から、「来ないともらえない」「行かないと損をする」という言い回しに変えることによって、より効果的になっています。
 

SOCIAL

効果を実感した参加者多数

→ 参加者100人中97人が効果的と回答

「多数」をより具体的に、何人中何人と示すことで、わかりやすくなっています。
 

TIMELY

大変ご好評をいただいております

→ 子育て世代の家庭に大好評

→ いまから始めれば間に合う

ターゲット層を明確にし、期日まで残り僅かというタイミングに、「きっかけ」を提供しています。
EASTフレームワークはマーケティングだけではなく、ビジネスでの資料作成やプレゼンテーションなど幅広く活用できます。

EASTフレームワークはマーケティングだけではなく、ビジネスでの資料作成やプレゼンテーションなど幅広く活用できます。

人材育成に活用

ナッジ理論は、人材育成の取り組みの促進にも有効です。

■ 社内研修の出席率アップの例
例えば、社内研修の出席率を上げて効果を高めたいという場合、「欠席する場合は担当部署に連絡する」という決まりをつくります。

これによって「従業員は特別なことがない限り参加する研修だ」という意識が生まれ、参加する必要がある研修だと認識されます。

また、欠席の場合は連絡するという手間があることも、従業員の心理に影響します。

■ 部下育成の例
部下や後輩など、各職場での人材育成やマネジメントにもナッジ理論は有効です。

人間には、自身の行動に対してフィードバックをもらうことでモチベーションが高まるという傾向があります。社内評価や給与に反映されるというわかりやすい指標にだけ影響されるわけではく、どういった点が良かったのかなど、具体的な行動に対してフィードバックされることで、従業員のやる気が高まります。

また、良くなかった点についても具体的に指摘されることで、「次はやり方を変えてみよう」「もっと良い成果を出そう」というように、改善を促すことにつながります。

ナッジ理論の注意点

ここまで、ナッジ理論のポイントや具体例をご紹介してきましたが、注意しなくてはいけない点もあります。

ナッジ理論を提唱したセイラー教授は2018年に、「良いナッジはよりよい選択ができ人々を手助けすることであり、選択を難しくするようなナッジは悪いナッジ」と述べています。悪いナッジはスラッジと呼ばれ、公共や民間を問わずスラッジは一掃されなくてはならないとも述べています。

このように、ナッジ理論は人が良い行動を選択するよう促すために用いられるものであり、「自社は利益を出すけれども、消費者は一方的な不利益を被っている」、「企業やマネジメント側は得をするけれども、部下には過剰な負担がかかっている」などは避けたほうがよいでしょう。

まとめ

ナッジは、人を動かすための非常に有効なアプローチです。うまく活用することで、人や社会をより良い方向へ導くことができます。

幅広く活用できますので、人材育成やキャリア支援、日々の業務などでも役立ててみてください。

Q&A

ナッジ理論とは何ですか?
人に小さなきっかけを与えることで、強制的ではなく自然と良い選択肢を取るようにするための理論です。
ナッジ理論のフレームワーク「EAST」とは何ですか?
ナッジ理論を用いる際に重要な4つのポイント、「Easy」「Attractive」「Social」「Timely」です。これらを押さえることでナッジの効果が期待できます。
ナッジ理論はどこで活用できますか
ナッジ理論はマーケティングだけではなく、ビジネスのプレゼンテーションや、人材育成にも活用することができます。
ナッジ理論の注意点は何ですか?
不自然な誘導をしないこと、多用しないこと、明らかに一方的な営利目的で使用しないことです。これらが守られていない場合、相手に拒否反応を持たれることがあります。ナッジの、「人を良い方向へ導くこと」という本質に沿っていない場合、信用を失うこともあります。

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