キャリアコンサルタント大辞典 Career Consultant Dictionary

キャリアコンサルタントに関する
役立つ情報を掲載

キャリア -

誰だって損はしたくない「プロスペクト理論」を解説

誰だって損はしたくない プロスペクト理論を解説

人の心理を解き明かす言葉は、私たちの行動や意思決定を理解する上で非常に役立ちます。今回はそのなかでも、特にビジネスやキャリア形成の場面で活用できる「プロスペクト理論」を取り上げ、その意味と、どのように私たちの選択に影響を与えるのかを解説していきます。

プロスペクト理論は「利益よりも損失回避」を重視する心理

プロスペクト理論とは、人が「利益を得ること」よりも「損を回避したい」という気持ちを強く持つ、という心理状態を指します。

例えば、次の二つの状況を比較してみましょう。

  1. コインを投げ、表が出れば11,000円を支払う。裏が出れば支払いは発生しない。
  2. コインを投げず、無条件に6,000円を支払う。

この状況では、多くの人は「1」を選択します。数字的な期待値だけで見れば「 2」の方が支払う金額が小さいにも関わらず、人は「6,000円」という不確実な損失を避けるよりも、「11,000円」という確実な小さな損失を選ぶ傾向があるのです。
また、別の例として、

  1. コインの表が出れば11,000円がもらえるが、裏ならばお金はもらえない
  2. 無条件に5,000円がもらえる

という状況では、多くの人は「2」を選びます。期待値的には「1」の方が多くの利益を得られる可能性を秘めているにも関わらず、より確実に利益を得られる方を選ぼうとするのです。

このプロスペクト理論では、「人は数学的な理論値によって行動を決めるのではなく、『より大きな利益を得る可能性のある行動よりも、小さな利益でも確実に得られる方』を選び、『もしかしたら損失がゼロになるかもしれない』という希望を抱き、あえてリスクを冒す行動をとる」と提唱しています。つまり、人は利益を得る場面では確実性を求め、損失を前にするとリスクを取ってでも回避しようとする性質を持っている、というわけです。

プロスペクト理論の歴史

プロスペクト理論の歴史は、今から約45年前の1979年に始まります。認知心理学者として知られるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが、共同でこの理論を提唱しました。エイモス・トヴェルスキーは1996年に亡くなっていますが、ダニエル・カーネマンは2002年にこの理論を含む行動経済学の功績によりノーベル経済学賞を受賞しました。

もちろん、このプロスペクト理論はすべての人や、すべてのシチュエーションに当てはまるわけではありません。性格や経済状況、その時の感情によっても選択は変わってきます。例えば、先ほどの実験で「当たっても外れても自分が損をするわけではないのだから、ゲーム性の高い方を選んでワクワクしたい」という理由で「1」を選ぶ人もいるでしょう。

しかし、このような人間の基本的な傾向を理解することは、様々な場面で私たちの意思決定を深く理解する助けとなります。

誰だって損はしたくない プロスペクト理論を解説

プロスペクト理論が活きる多様な場面

プロスペクト理論は、私たちの日常的な意思決定から、組織運営、個人のキャリア形成に至るまで、幅広い分野でその知見が活かされています。ここでは、その具体的な活用例を見ていきましょう。

マーケティング・商品戦略における活用

プロスペクト理論は、消費者の購買行動を促すためのマーケティング戦略において非常に有用です。

得を強調するより「損の回避」に焦点を当てる

プロスペクト理論の根幹は、「人は利益を上げることよりも、損を避けたがる傾向にある」というものです。
 
例:健康食品の場合

「得」を強調するアピール

「このサプリメントで毎日をハツラツと過ごしましょう!」

「損の回避」に焦点を当てたアピール

「今からケアしないと、将来後悔するかもしれません」

このように、サービスを提案する際に、単に「こんなメリットがあります」と伝えるだけでなく、「このサービスを使わないことで、どのような不利益を被る可能性があるか」という視点で伝える方が、消費者の心を動かすことがあります。

「期間限定」「特典あり」はプロスペクト理論の理論に基づいている

「今だけ」「〇〇までにご購入いただくと特典付き!」といったセールス文句は、多くの人が一度は目にしたことがあるでしょう。これらは、まさにプロスペクト理論に基づいた戦略です。
 

期間限定

「今買わないと損をする」という損失回避の心理が働き、この機会を逃すと、同じ条件で手に入らないという焦りや不安が購買意欲を高めます。

特典あり

「特典をもらえないのはもったいない」という損失回避の心理が働きます。商品そのものに加えて、「おまけ」や「割引」といった付加価値を失いたくないという気持ちが、購入の決め手になります。

 
ただし、これらの表示には景品表示法という法律が関わってきます。実際には期間限定ではないのに「今だけ」と表示したり、特典の内容を偽ったりすると、法律違反になる可能性があります。法律に違反すると、罰則の対象となるだけでなく、企業の信用も失ってしまうため注意が必要です。
出典:消費者庁「事例でわかる景品表示法 不当景品類及び不当表示防止法ガイドブック

「割引前の値段」を明示する効果

「元の値段〇円から、今なら〇パーセントオフ!」という表示も効果的です。人は無意識のうちに「高いものは良いもの」と感じる傾向があり、割引前の価格を示すことで、より大きな「お得感」を感じさせることができます。「こんなに良いものを、こんなに安く手に入れることができるなんて」という感覚は、購買行動を強く後押しします。

修理保証や返金保証による安心感の提供

スマートフォンやパソコンなどの高額な商品を購入する際は「すぐに壊れたらどうしよう」「期待外れだったらどうしよう」といった不安がつきものです。企業が「もし壊れても無償で修理する」「ご満足いただけなければ返金する」といった保証をつけることは、顧客の「損をしたくない」という心理に直接訴えかけ、購入へのハードルを大きく下げます。これは、売り上げ向上だけでなく、「顧客を大切にする企業」というイメージの向上にもつながります。

BtoCでの「ポイント付与(有効期限あり)」の有用性

「100円で1ポイント」のようなポイント付与、特に「有効期限あり」のポイントは、顧客の再来店や再購入を強力に促します。「せっかく貯めたポイントを無駄にしたくない」という損失回避の心理が働き、有効期限内にポイントを使い切ろうと店舗やWEBサイトに足を運ぶようになります。BtoCの場合、個人の意思決定で比較的自由に購買行動ができるため、この効果は顕著に表れやすいと言えます。

人事領域にも活用できる「プロスペクト理論」

プロスペクト理論は、個人のキャリアパスや組織の人材育成においても活かすことができます。

「失敗」への恐れを和らげ、挑戦を促す

「得をすること」よりも「損をすること」を強く避けようとするプロスペクト理論を仕事に当てはめると、失敗による損失(評価の低下、周囲からの目など)を意識するほど、新しい挑戦や積極的な行動をためらうようになります。例えば、「新しい企画がうまくいかなかったらどうしよう」「ミスをしたら評価が下がってしまう」といった不安は、挑戦の機会を奪い、社員の成長を妨げる要因になりかねません。

挑戦を促すための具体的なアプローチ

社員が「失敗すること」を過度に恐れず、自信を持って挑戦できる組織にするために、人事がプロスペクト理論を活用してできる具体的なアプローチをみていきましょう。

挑戦と失敗をプロセスの一部と捉える

結果だけでなく、挑戦したプロセスやそこから得られた学びを重視する評価制度を導入することで、「失敗は成長の糧である」というメッセージを明確にします。

成功体験を可視化する

小さな成功でも積極的に共有できる、社内報、ミーティングでの発表などの仕組みや、定期的なフィードバックを通じて、成功体験を積み重ね、自信を高めます。

失敗を踏まえた改善点を含んだ振り返り

失敗の原因を個人的な能力の問題とせず、「組織や仕組みに改善点はないか」という視点で振り返る機会を設けることで、心理的な安全性を確保し、前向きな改善へとつなげます。

これらの取り組みは、社員の「損失回避」の心理を和らげるだけでなく、組織全体の心理的な安全性を高め、継続的な成長を促すことにつながります。

誰だって損はしたくない プロスペクト理論を解説

プロスペクト理論を人事やキャリア形成に活かす

「プロスペクト理論」は、「人は、利益を得る行動よりも、損失を避ける傾向にある」という人間の本質的な心理を教えてくれます。

この理論はマーケティングだけではなく、人事や個人のキャリア形成、日々の意思決定に至るまで、多岐にわたる分野で活用されています。例えば、マーケティングでは「期間限定」「有効期限ありのポイントカード」「返金保証」などがプロスペクト理論に基づいています。人事領域では、社員が失敗を恐れずに挑戦できる環境を整備したり、モチベーションを管理したりする上で役立ちます。

私たち一人ひとりがこのプロスペクト理論を理解することで、なぜ特定の選択をしてしまうのか、あるいは他者がなぜそのような行動をとるのかを深く洞察できるようになります。今後の自身のキャリアや人生において、活用してみてはいかがでしょうか。

Q&A

プロスペクト理論を簡単に言うと?
「人は、利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛をより大きく感じる」という心理です。この心理が、利益の場面では『確実な利益』を好み、損失の場面では『リスクを取ってでも損失を回避しよう』とする行動に繋がります。
プロスペクト理論の提唱者は?
認知心理学者であるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの2人です。この功績により、カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。
プロスペクト理論は仕事以外の場面でも使われている?
はい、日常生活の様々な場面で見られます。「貯金が減るのが嫌で、大きな買い物をためらう」「面倒でもクーポンを探して少しでも安く済ませようとする」といった行動などは、損失を避けたい、あるいは損失を最小限に抑えたいというプロスペクト理論に基づいています。
プロスペクト理論は人事領域でどのように活用できますか?
プロスペクト理論は、社員が失敗を恐れて新しい挑戦をためらう心理を理解し、それを和らげるために活用できます。具体的には、結果だけでなく挑戦したプロセスを評価する制度を導入したり、失敗から得た学びを共有する機会を設けたりすることで、社員の心理的安全性を高め、積極的な行動を促すことができます。

Information

初心者から短期間で
カウンセラーやキャリアコンサルタントになるには

リカレントでは、日本を代表するキャリアカウンセリングスクール「リカレントキャリアデザインスクール」を運営しています。

「国家資格キャリアコンサルタント」を取得したい方や、初心者からキャリアカウンセラー、キャリアコンサルタントとして、キャリア支援を行ってみたい方は、ぜひ下の青いボタンからパンフレットをご請求ください。

パンフレットは2,3日中にお手元に無料でお届けします。 パンフレットは2,3日中にお手元に無料でお届けします。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

RECOMMENDおすすめ記事

FEATURE特集

人気講師の対談や専門知識など、
役立つ情報が満載!

MoreView
↑