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MENTAL HEALTH - 2023.01.17

カウンセラーを目指す方なら知っておきたい!働く人のメンタルヘルス対策【6】「ダイバーシティ支援:介護と仕事の両立支援」

労働者視点のダイバーシティには、働きづらさという悩みをもったあらゆる人々が含まれます。中でも近年問題視されていることのひとつが「介護離職」です。

そこで、働く人をサポートするカウンセラーやコンサルタントなら知っておきたい介護にまつわる問題とその支援について詳しく紹介していきましょう。

日本では少子高齢化が進み、労働人口の減少などの問題が浮き彫りになっています。その一方で、労働者の視点からみたダイバーシティ(社会の多様性)の重要性も年々増しており、労働人口減少問題と相まって「性・年齢・障害等の差異にとらわれてない多様な労働者からなる職場作り」は急務といえるでしょう。

親の介護によって仕事ができなくなる、あるいは職場にいづらいと感じる人は少なくないようです。事実、介護を理由に前職を離職した労働者数は2021年時点で9万3千人に昇っています。
参考)厚生労働省 | 2021年雇用動向調査結果の概要

介護は誰もが直面し得る問題

家族、特に親の介護はいつ直面することになるか予想がつきません。出産・育児はある程度の予測も可能でしょう。

ところが、高齢者は転倒などのちょっとした事故のケガや病気などから予期せぬ状況で介護が必要となるケースもあり、「何歳くらいになったら親の介護を始める」といえるものではありません。

さらに、男性も女性も、全ての労働者が直面する可能性があるのが介護の問題です。

また、介護に直面する年代は40代後半から50代と管理職に就く働き盛りが多いという点も看過できません。

必ずしも、配偶者が自分の親の介護を手伝ってくれるというわけではなく、場合によっては同時期に夫婦それぞれの親に介護が必要なことさえ考えられます。

前述の介護離職者数ですが、2007年には14万4千人を記録、2012年には10万1千人に減少したものの、以降は横ばいで依然として深刻な問題であることは変わりないようです。

離職して介護をすると、どうなる?

介護を始めると、思っていた以上に負担が大きいことを思い知らされます。

真夜中に起こされてよく眠れず、認知症の場合などは昼間も目を離した隙に徘徊してしまうのではないかといても立ってもいられない、そんな状況で仕事も並行して行っていれば精神的にボロボロになり、負担を減らすために介護に専念したいと考えることもあるでしょう。

しかしながら、多くの人が離職して介護に専念してからの方がより負担が増したと感じています。

介護に直面している人、特に自分の親であれば、一人で全てをこなさなければと思い詰めてしまうものです。強い責任感故に、精神的・肉体的に逆に自ら逃げ場をなくしているといえるかもしれません。

仕事と介護両立の重要性 ~介護離職後の再就職は難しい

介護離職を避けたいもう1つの理由は、いったん離職してしまうと復帰することが非常に難しいという点です。

介護の大半は看取りで終わり、無職の自分が残されることになります。しかも年齢的には50代の人が多く、前職と全く同じ条件の仕事に就けるのは稀といっていいでしょう。

総務省の調査によれば、介護離職者のうち再就職ができたのは43.8%と5割にも満たない結果となっています。

さらに正社員として再就職できたのは、男性で3人に1人、女性で5人に1人と非常に厳しい数字です。年収も男性で556万円から341万円、女性で350万円から175万円と激減し、介護離職・介護終了後の生活が経済的に行き詰まることはよくあります。
参照)仕事と介護の両立と介護離職

このような事情を考えると、仕事はできるだけ続ける方が、将来的に有利となるケースが多いともいえます。働く人をサポートするカウンセラーやコンサルタントは、一人でも多くの労働者が不本意な介護離職を避けられるように、仕事と両立できるように支援することが大切です。

仕事と介護の両立のための5つの取り組み

介護離職を予防するための支援対策として、厚生労働省は2015年に「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」を策定し、仕事と介護の両立支援事業に乗り出しました。事業者や企業に求められる、5つの取り組みの「仕事と介護の両立支援対応モデル」を紹介しています。

(1)「従業員の仕事と介護の両立に関する実態把握」

「従業員の仕事と介護の両立に関する実態把握」は従業員に対するモデルです。全体的なアンケートやヒアリング、個人面談、介護経験者へのヒアリングを通して、現在抱えている、あるいは今後起こると考えられる介護に関する事情や問題を整理します。

現在進行形で介護に直面している従業員に労働時間や休暇のとり方、周囲とのコミュニケーションの状況などを理解するのは言うに及ばず、介護経験の有無や今後介護が必要になるかどうかの可能性、実際に介護が必要になった場合の不安、介護中の働き方への意識など、まだ介護を行っていない従業員の潜在的な状況も知っておかなければなりません。

(2)「制度の設計と見直し」

「制度の設計と見直し」は主に人事のためのモデルです。最低限の取り組みとして、育児・介護休業法に定められた介護休業制度や介護休暇制度などを配備しなければならないという「法定の基準」があります。

自社がこの「法定の基準」を満たしているか、自社の制度の趣旨・内容が従業員に周知されているか、自社の制度の利用条件や手続きがわかりにくかったり煩雑すぎたりしていないか、自社の制度が従業員の支援ニーズに対応しているかといったことを確認・検討し、柔軟に対応するようにしましょう。

(3)「介護に直面する前の従業員への支援」

「介護に直面する前の従業員への支援」は従業員が介護に直面してからではなく、そのような状況になることを想定した準備ができるようにするための人事・従業員のモデルです。従業員には、仕事と介護の両立に対して企業が支援する方針を打ち出していることや支援制度があることを周知させます。

また、人事は定期的にセミナーを開催するなどして、介護に直面しても仕事を続けるという意識を高め、介護について話しやすい雰囲気作りなどの職場環境整備をします。

(4)「介護に直面した従業員への支援」

「介護に直面した従業員への支援」は文字通りの実践的なモデルです。詳しくは次の章でご説明します。

(5)「働き方改革」

「働き方改革」は(1)~(4)全てに通じるモデルであり、常に同時に考えるべきことです。

長時間労働の見直しや有給休暇の取得促進といった労働時間に関することに加え、情報共有などの仕事の見える化、お互い様と助け合える職場の雰囲気作りを通して、日頃から働き方について考えるようにして、仕事と介護を両立しやすくします。

特に、管理職の立場での両立は困難と感じている人が多いようですから、管理職が率先して働き方改革に取り組むことは大切です。
参照)厚生労働省 | 両立支援実践マニュアル
 

介護に直面した従業員への支援

仕事と介護を両立させることは、実際問題として難しいのが現状です。「介護に直面した従業員への支援」の実践で考えられるのは大きく分けて次の3つの時期で、介護に直面した従業員・企業共に定期的に見直して、臨機応変に対応していかなければなりません。

(1)「相談・調整期」

「相談・調整期」は、従業員から介護や業務上の悩みの相談を受け、どのような介護サービスを受けるのかといったことも確定していない流動的な最初の段階。従業員本人・上司となる管理職・人事担当の三者面談などを通して、当面の働き方や自社の両立支援制度をどう利用したいかなどを確認します。

(2)「両立体制構築期」

「両立体制構築期」で、従業員はケアマネージャーなどの専門家とケアプランを作成します。同時に管理職・人事担当とも、ケアプランを踏まえて、仕事との両立に必要な働き方や支援制度利用をより具体的に相談するプラン策定面談を行います。

(3)「両立期」

「両立期」では、(2)で構築した両立体制を見守り、定期的に介護や仕事の状況をヒアリングします。状況が悪化した場合には働き方を見直すなど、柔軟な体制を用意しておくべきです。

外部EAP(従業員支援プログラム)サービスを提供する立場での支援の方法とは

さて企業内ではなく、外部のカウンセラーやコンサルタントとしての立場で支援する場合、EAPコンサルタントやEAPメンタルヘルスカウンセラー、キャリアンサルタントはどのように働きかけていけばいいのでしょうか?

まずは、従業員一人ひとりやそれぞれの職場および企業全体として、介護に対してどの程度関心があるかを把握するところから始めます。

関心はあっても日々の業務に追われてなかなか考える余裕がないという従業員や企業もあるかもしれませんが、介護は誰にも起こり得て、突然やってくるもの。

直面してからでは対応が遅れてしまうので、そのような実状を伝え、アンケートや社内セミナーの実施で日頃から介護への意識を高めるように提案していきましょう。

そして、介護保険利用を促したり、公的な介護サービスの情報を周知させるようにしたり、社内の人的マネジメントや働き方の選択肢を増やす工夫といった自社制度の調整を提案も合わせて行っていきます。

介護に直面をした従業員と面談する方へのアドバイス

介護に直面した従業員本人と直接EAPメンタルヘルスカウンセラーや、EAPコンサルタント、キャリアコンサルタントが面談できればよいのですが、実際に最初に従業員が相談するのは上司の管理職や人事担当というケースが多いのではないでしょうか。

介護というデリケートな問題を抱えているうえに、仕事での体面や負い目などを感じている従業員に対しては、初動での対応が、従業員のその後に大きく影響することも考えられます。面談でどのように接すると良いかをアドバイスするのも大切です。

例えば、カウンセリングの技法のひとつである「傾聴」の方法やポイントを伝え、実践してもらうのも支援の第一歩となるはずです。

いきなり働き方に対して意見するのではなく、相手の話に耳を傾けること、相手の立場に立って事情や思いをヒアリングして「どのような方法があるのかを一緒に考えていこう」という姿勢を示すことなど、「傾聴」をベースにしたコミュニケーションスキルを多くの人に知ってもらうのも非常に有益です。

まとめ

今回は、職場のメンタルヘルス対策として、働く人をサポートするカウンセラーやコンサルタントなら知っておきたい介護にまつわる問題と仕事との両立支援について解説しました。

40~50代の従業員が突然離職するのは、本人にとっても企業にとっても大きな問題です。

管理職などのポストにあればその穴をどうするのか、これまで通りの事業進行を保つためにどうしたらいいか、引き継ぎはどうするのか、復帰はどうするのかなど、多くの問題が生じることでしょう。

また、若い従業員の中には介護は自分とは程遠い問題と思っている人がいるかもしれません。

日頃からの介護への意識づけによって、仕事と介護を両立しやすい職場風土を作り、制度を整備して、いざというときに役立てられるようにすることが企業や社会の生産性向上にもつながるということも意識していきましょう。

 
次回  働く人のメンタルヘルス対策【7】

カウンセラーを目指す方なら知っておきたい!働く人のメンタルヘルス対策【7】「ダイバーシティ支援:育児と仕事の両立支援」

 

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