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COUNSELOR - 2020.09.02

杉山教授のこころラボ 第5回「時代が求めるカウンセラー①」ーバブル経済展開期編ー

この記事を書いた方のご紹介

杉山崇(神奈川大学教授)

リカレント スクール教務顧問
神奈川大学教授/1級キャリアコンサルティング技能士/臨床心理士
脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法を開発・研究を行う。
うつ病研究、認知行動療法のトップランナー。臨床歴20年以上。著書は20冊以上。
講演、TV、雑誌などメディア実績も多数。

みなさん、コロナ、ころな、Corona…と渦巻く毎日ですが、いかがお過ごしですか?
世界中が新型コロナウィルスに翻弄されて、世界が変わりました。西暦ではキリスト生誕の以前と以後で世界が大きく変わったとみなして、「AD」「BC」と区別しますね。
なんだか、2019年までを「Before Corona」という意味での「BC」として、2020年を「With Corona元年」とでもしてしまいそうな勢いに感じるのは私だけでしょうか?

昨今はアフターコロナやwithコロナが注目されがちですが、シリーズで時代という視点からカウンセリングを考えてみたいと思います。まずは日本にカウンセリングが紹介されたバブル経済の展開期(高度成長期)を振り返ってみましょう。

経済の高度成長期が「カウンセリング≒傾聴」という誤解を生み出した!?

経済の高度成長期、そしてバブル経済というと30代以下の方にとってはもはや歴史の世界でしょうね。
でも、その当時に作られたさまざまな仕組みが現代社会の中でも生きています。このことはカウンセリングでも例外ではありません。
その最たるものは「カウンセリング≒傾聴(聴くだけ)」という誤解です。実はカウンセリングとは「よく考えて適切な助言や提案をする」という意味の「counsel」が語源です。ですから、傾聴だけのカウンセリングは本来の意味と真逆に近いわけです。
なぜこうなったのか…?思うに、日本にカウンセリングを輸入したときの米国におけるカウンセリングのニューウェーブが、C.Rogersが「来談者中心療法」としたアプローチだったのが最たる理由のように見えます。
しかし、私には、日本でこのように真逆の捉えられ方をしたのは高度成長期の日本の状況も影響していたように思えます。一体何が影響して、「カウンセリング≒傾聴」と思われることになったのでしょうか?

目的意識が美化された高度成長期

高度成長期の真っ只中、日本は一つの価値観にみんなが熱狂していました。その価値観とは「もっと豊かに!もっと金持ちに!」という価値観です。
その中では今で言うマインドフルな姿勢は評価されていなかったように思えます。なぜなら、「もっと、もっと!」の中では「成果を求める目的意識」や成果に結びつくかどうかを基準にした「価値判断」が強くなるからです。

マインドフルな状態とは「目的意識」や「価値判断」とは真逆の心理状態です。高度成長期では、「目的を強く持て!」「成果の価値を考えろ(判断しろ)!」「効率の良し悪しを考えろ!」などと強く言われたものです。誰もが価値判断にさらされ、目的意識を求められる時代でした。

ある元起業戦士の方とのマインドフルネス研修

一つ、私が体験した例をご紹介させてください。10数年前、ある地方都市に招かれてマインドフルネス研修を行いました。そこに、「かつての高度成長期のおじさん」というイメージがピッタリのリタイアド・シニアの方がお出でになりました。
この方は長く企業戦士として世界を駆け回ってご活躍…という立派なご経歴です。出身地の地方都市で余生を過ごしておいででした。かなりの高齢でしたが知識欲旺盛で、頭も切れる方でした。
研修では私はマインドフルネスで目指すものを説明し、導入として身の回りの音に耳を澄ますワークを行いました。このワークの目的は「普段は流してしまう、今、この瞬間の感覚を何も考えずにキャッチして、私たちには感覚が溢れていることを実感しましょう」と説明していました。
ワークが終わって私が参加者に感想を求めたところ、この男性は「車の音が聞こえた。この時間にこの辺を走っているなら…、音の太さからして排気量は…、結果、車種は◯◯だとわかった!」と誇らしげにお話になりました。
この男性は「車の音」をキャッチすると、それを情報と捉えて一気に推論ゲームという情報処理をはじめたわけです。「僅かな情報からでも、可能な限り全貌を把握しよう」という強い目的意識がここにはあります。

高度成長期の目的意識が傾聴や共感を阻害した?

この方が高度成長期の価値観を代表する方かどうかはよくわかりません。しかし、強い目的意識をお持ちの方だということは伝わってきました。高度成長期は、この方のような「もっと成果を!」という目的意識が支えていたのです。
成果を出すには成果を妨げる問題やより大きな成果を追求するための課題を探し、その解決を合理的に考えなくてはいけません。マインドフルな姿勢ではなく、批判的な思考力(クリティカル・シンキング)が幅を利かせていたと思われます。
批判的な思考力に取り囲まれた社会の中で、心が疲れた方々は「傾聴」を欲していたのではないでしょうか?黙って、なんの批判もなく、すべてを受容してくれる…まるで慈愛に満ちた菩薩かマリア様ですね。でも、そんなカウンセラーを当時の日本は必要としていたのかもしれません。

バブル経済展開期のカウンセラーたち

そして日本のカウンセリング黎明期を支えていた第1世代の先輩たちには、幅を利かせる「多数派」「体制派」の逆を行く気概が必要でした。何事も、新しいことを始めるにはこのような気概が必要だったのでしょうね。
この時代の先輩たちには「長いものに巻かれない」という気概が強い方が多い印象です。また、カウンセリングの資格化を嫌がる人もいました。資格化することで、カウンセリングが体制化されてしまう、すなわち「長い物」になってしまうと本末転倒と考えていたようです。
続く第2世代では、第1世代の先輩方の支援で心を救われた方々が現れるようになりました。私の印象では、第2世代の先輩方も多数派や体制から距離を取る姿勢だったように感じました。ただ、第1世代より繊細でナイーブな方が多かった気がします。「長い物」にはあえて逆らわないけど、内心では迎合はしない…、こんな方が多かった印象です。
高度成長期を突き抜けた日本経済はバブルに突入しました。その中で、世の中はますます「もっと金持ちに、もっと成果を!」という目的意識に囚われていきました。そんな世の中では、第2世代の先輩方の繊細な傾聴と共感が「もっと、もっと!」に疲れた心を救ってきたことと思います。

バブル経済展開期のカウンセリングは傾聴が重要だった!

このように日本のカウンセリングは「≒傾聴」という誤解を遺しました。ただ、私はこの時代を考えれば必要なことだったと考えています。
そして、「もっと金持ちに!」という時代において「長いものに巻かれない」という気概のある第1世代も必要だったと思います。さらに、より繊細な傾聴や共感ができた第2世代もその次代に「疲れた心」を癒やすには必要だったことでしょう。
さて、このようなカウンセリングの展開の中で次の第3世代、そして平成の経済の失われた20年の中でどうなっていくのでしょうか。この話は、次回の失われた20年編でご紹介したいと思います。

まとめ

杉山教授のこころラボ 第5回では「時代が求めるカウンセラー」をテーマにバブル経済展開期編を解説していただきました。時代の背景とその時代に求められるカウンセラー像のわかりやすい解説に、なるほどと納得された方も多いことでしょう。
この後、どのようなカウンセラーが求められていくのでしょうか。次回の失われた20年編も楽しみですね。

心の専門家を目指す皆さんにとって有意義となる情報を、杉山教授がわかりやすく解説をしていくのがこのコーナーです。ぜひ楽しみにしていてくださいね。

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