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COUNSELOR - 2020.10.23

杉山教授のこころラボ 第6回「時代が求めるカウンセラー②」ーポストバブル経済と失われた20年の前夜ー

この記事を書いた方のご紹介

杉山崇(神奈川大学教授)

リカレント スクール教務顧問
神奈川大学教授/1級キャリアコンサルティング技能士/臨床心理士
脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法を開発・研究を行う。
うつ病研究、認知行動療法のトップランナー。臨床歴20年以上。著書は20冊以上。
講演、TV、雑誌などメディア実績も多数。

コロナ禍と言われる状況が続いていますが、部分的に規制や制限が緩和されましたね。みなさま、この状況をどのように対処なさっているでしょうか。
リスクを感じてさらに用心している方もいらっしゃることでしょう。また、制限が強かった時期に失った時間を取り戻すべく、活発になっている方もいらっしゃることでしょう。
もしかしたら、失った時間を取り戻す波に飲まれて悲鳴を上げている方もいるかも知れません。
いずれにしても、今年は先行きが見えない激動の1年になりそうですね。

その中で、カウンセリングの今後も先行きが不透明です。次の時代が求めるカウンセラー像を考えるために日本のカウンセリングを振り返るこのシリーズ、今回はポストバブル経済の時代へと進めたいと思います。

バブル期までのサマリー

前回は高度成長期の「もっと、もっと!」という「モーレツな目的意識」の影で蔑ろにされがちだった「心」を救うべく「傾聴」を始めた、まるで革命家のようなカウンセリング第1世代に焦点を当てました。
第1世代の諸先輩方の活躍は「カウンセリング≒傾聴」という誤解を日本に残しましたが、クリティカル・シンキング優勢で傾聴が欠けていた社会の中で多くの心を救いました。
続く第2世代には第1世代に心を救われた諸先輩方も顕れ始めました。
時代がバブル経済に突き進み、ますます「心」が蔑ろにされる時代の中で、まるで哲学者か思想家のように、「心」をより深く繊細に護る活動を展開しました。
その後に続くポストバブル経済の第3世代の誕生を考えるには「資格化」というファクターが欠かせません。
そこで、ここでは時計の針を一時的にバブル経済以前に戻したいと思います。

高度成長期のバブル化の裏で進んだカウンセリングの資格化

1960代から1980年代、世の中がその後のバブル経済に突き進む胎動に浮かれている裏で、カウンセラー界はある議論が白熱していました。
それは「資格化」の議論です。
まずスタートしたのは産業カウンセラーの資格でした。1971年から有資格者を出し、一時は旧労働省が関わる公的資格でもありました。
後に臨床心理士の資格を生み出す諸先輩方は医療領域に参入することを目指しました。
したがって、旧厚生省や医師の団体なども議論に巻き込むことになりました。「医師の指示か、指導か」など多様な観点が持ち込まれ、さらに白熱した議論が展開されました。
そのため、産業カウンセラーに比べると資格化が遅れることになり、臨床心理士の最初の有資格者を出したのは1988年でした。
ただ、医療領域への参入はハードルが高く、臨床心理士の資格は旧厚生省との協力関係で生まれたものではありませんでした。

民間資格、臨床心理士が残したもの

実は資格化の推進派だった諸先輩方は、旧厚生省との協力を諦めて文部科学省との協力関係の中で臨床心理士の資格を作ったのです。
そして、「公益法人が認定する民間資格」という位置づけで臨床心理士の認定が始まりました。
臨床心理士は旧厚生省との協力関係はなかったとは言え、他の先進国のカウンセラー(心理職)資格制度を参考にしたアカデミックな心理職の資格で、これはこれでエポックメイキングな出来事でした。医療、教育、産業、福祉、司法、など各領域をカバーでき、日本の臨床心理学(カウンセリングの基礎学)を大きく発展させる起爆剤になり、さらに社会的認知も高まりました。
筆者の最初の師である故村瀬孝雄(日本心理臨床学会第4代理事長、元東京大学教授)はこの時代を臨床心理学の「思春期」と表現していました。

資格化の裏で起こった2つの業界事情

ただ、裏には裏があるものです。
カウンセラー界が思春期の輝きを放っていた裏ではいくつかの「業界事情」が進行していました。
まず、第1世代、第2世代の中でも資格化に賛同するグループと賛同しないグループに別れました。
第1世代は革命家のような熱いハートを持つ方が少なくなかったのですが、その一部は「資格化(=権威化)」は良くないことと考えました。
その背景には様々な主張がありました。ここでは割愛しますが、無資格でカウンセリングを行うグループの魂は「日本臨床心理士会」などで生き続けています。

次の業界事情は学派の「家元化」です。資格化という目標で多くの第1世代、第2世代が協力し合ったものの、資格化が軌道に乗ってからは事情が違ってきました。
臨床心理学は「心理学」を名乗っているものの、心理科学とリンクしている行動療法(認知行動療法)、S.FreudやC.Jungなどの天才の考察を発展させてきた精神分析的心理療法やユング派、人間哲学を志向する人間性心理学、当時ニューウェーブだった家族療法の「4大アプローチ」と言われる学派があります。学派ごとに独自の用語で独自の考察を重ねてきたため、もともと交流や対話が少なかったのですが、このことが更に浮き彫りになってきました。
また、カウンセリング第2世代の諸先輩方の多くは学派にコミットする志向がある方が比較的多かったため、自分たちが育てた次世代にもそれを求めました。こうして日本のカウンセリング界は、資格に背を向けた諸先輩方からは「家元制度」と呼ばれる状況になりました。

河合隼雄の啓発活動とカウンセリング第3世代

 
このような業界事情は高度成長期、バブル経済、またポストバブル経済のといった経済中心でみた「時代」とは関係性が低いものです。
しかし、私はカウンセリングの発展の歴史という意味では必要な「時代」だったと思います。
師の故村瀬孝雄は当時の状況に複雑な思いを口にすることもありましたが、業界全体として考えれば将に「思春期」であらゆる可能性を試す試行錯誤の時代だったと思います。
交流や対話がないということは「それぞれに、それぞれのアプローチを磨いていた」とも言えます。
それぞれに磨きすぎて尖りすぎて必ずしも時代のニューズに沿っていなかったかもしれませんが、これはこれで必要な時代だったと私は考えています。
それに、資格化の成果としてもう一つの新しい胎動がありました。
資格化がなかったら、職業としてカウンセラーを選ばなかった層がこの業界に入ってき始めたのです。
特に臨床心理士資格制度の父のように尊敬されている故河合隼雄(元文化庁長官、元京都大学教授)は、多くの啓発活動を行いました。その啓発に惹かれてカウンセラーを目指した層が多いのが第3世代の特徴です。
特に臨床心理士など心理職はいずれは医師並みの評価を受ける可能性を示唆し、医学部を目指していた層だけでなく、他の職業に流れていた層も多くカウンセラー業界に流入することになりました。
この第3世代はどのようなカウンセラーたちなのでしょうか。この続きは次回でご紹介したいと思います。

まとめ

杉山教授のこころラボ 第6回では「時代が求めるカウンセラー」をテーマにポストバブル経済と失われた20年の前夜を解説していただきました。時代の背景と照らし合わせた解説に、なるほどと納得された方も多いことでしょう。
この後、どのようなカウンセラーが求められていくのでしょうか。次回も楽しみですね。

心の専門家を目指す皆さんにとって有意義となる情報を、杉山教授がわかりやすく解説をしていくのがこのコーナーです。ぜひ楽しみにしていてくださいね。

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